研究概要 |
本研究の対象物質であるCuFeO2はスピン間に働く反強磁性相互作用が三角形の対称性を持つ格子の幾何学により競合し、その結果非自明かつ多彩な磁気秩序を発現するスピンフラストレーション系として1990年代から研究されてきた系である。2000年代には、この系において磁気秩序に対応した格子歪みが見つかり、さらに、磁気秩序の対称性が系の反転対称性を破ることによって電気分極が生じる所謂マルチフェロイック特性も見いだされ、スピン・格子・分極の自由度が多彩に組み合わさった新奇な交差相関現象が起こる舞台として盛んに研究されるようになった。 本研究では、この系の格子の自由度に直接作用する「一軸圧力」を用いて新たな交差相関現象の開拓をするべく研究を進めてきた。昨年、一昨年の実績報告書でも述べた通り、H23年度は「一軸圧力による系の磁気ドメインの再配列効果を通じた電気分極の制御」を実現した。さらにはその強いスピン・格子結合の起源を解明するべく、非磁性Ga3+イオンをドープすることでマルチフェロイック相を基底状態として持つCuFe1-xGaxO2(x=0.035)試料の一軸圧力中での中性子非弾性散乱実験を行い、格子歪みに対応した相互作用の変化を明らかにした。 H24年度は、これまでのCuFeO2, CuFe1-xGaxO2の磁気相転移への一軸圧力効果を多彩な実験手法から多角的に探査した論文を発表し、さらに一軸圧力下での格子の変化を微視的に探査するためのX線回折実験や、磁場誘起相におけるスピン・格子結合を直接観測するための強磁場中中性子非弾性散乱実験も行った。 主な実験はH24年度までで終了していたが、一部海外での実験が年度末にずれ込んだことと、成果を発表するための時間が十分でなかったことから1年の延長を申請し、H25年度は上記の結果を含む論文2報を発表し、日本物理学会及び日本中性子科学会での発表を行った。
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