研究課題
鉄系化合物における高温超伝導メカニズムを理解するためには、超伝導相出現に伴う電子状態の変化を明らかにすることが必要不可欠である。本研究の目的は、鉄系圧力誘起超伝導体の高圧力下量子振動測定を行い、フェルミ面形状や電子有効質量等の系統的変化を明らかにすることである。高圧力を外部パラメータとすることで、化学量論的組成の同一単結晶試料に対する基底状態の制御が可能となる。初年度は、これまで精力的な高圧力研究を行ってきた鉄系圧力超伝導体EuFe_2As_2を対象とし、磁気抵抗の量子振動であるシュブニコフ-ドハース(SdH)振動測定を行った。EuFe_2As_2の臨界圧力P_c(磁気秩序が消失し超伝導相が出現する圧力)は2.5-2.7 GPa(万気圧)であるため、3 GPa以上の圧力発生が可能な多層式ピストンシリンダー型高圧力発生装置を用いた。これまで残留抵抗率比が15の単結晶試料を用いて量子振動測定を行ってきたが、常圧における量子振動の観測には至らなかった。今回、残留抵抗率比が約50の純良単結晶を用いてSdH振動測定を行った結果、初めてEuFe_2As_2の常圧での量子振動の観測に成功した。更に、試料を冷凍機中で回転させることにより、SdH振動の角度依存性も明らかにすることが出来た。今後は、観測された複数種類の周波数成分と電子構造計算の結果とを比較することにより、フェルミ面形状の詳細を明らかにしていく予定である。現在は、高圧力下SdH振動測定を進めている最中である。以上の量子振動測定に加え、EuFe_2As_2の3.2 GPaまでの高圧力下ホール効果測定を行った。マルチキャリア解析を行った結果、P_c以下では3種類のキャリア、P_c以上では2種類のキャリアを仮定することで、EuFe_2As_2の電子状態を理解できることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
残留抵抗率比が約50の純良単結晶を用いたシュブニコフ-ドハース(SdH)振動測定を行った結果、EuFe_2As_2の常圧での量子振動の観測に初めて成功した。更に、SdH振動の角度依存性も明らかにし、現在は高圧力下SdH測定に取り掛かっている。また高圧力下ホール効果測定により、2種類若しくは3種類のキャリアを仮定することで、EuFe_2As_2の電子状態が理解できることを明らかにした。これらは研究計画に即した大きな進展である。一方、高圧力下量子振動測定に関しては十分なデータが得られたとは言い難いため、次年度以降も継続して行う予定である。以上を総合的に判断すると、「本研究はおおむね順調に進展している」と考えられる。
研究計画通り、量子振動測定用の4 GPa級小型高圧力発生装置の開発に力を入れる。これまでに引き続き、EuFe_2As_2の高圧力下シュブニコフ-ドハース振動測定を行う。これまでに得られた測定結果について十分な議論を行い、論文執筆や国内外での学会発表を行う。
次年度分の研究費は、研究計画通りに使用する。繰り越し分に関しては、未購入の備品及び消耗品に充当する。
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Journal of Physics: Conference Series
巻: 391 ページ: 012132 (1-4)
10.1088/1742-6596/391/1/012132
Physical Review Letters
巻: 107 ページ: 176402(1-4)
巻: 107 ページ: 166402(1-4)