研究課題
本年度は鉄系圧力誘起超伝導体EuFe_2As_2の高圧力下シュブニコフ-ドハース振動(SdH:磁気抵抗に現れる量子振動)測定を行い、SdH振動数及び有効質量の圧力依存性を明らかにした。鉄系超伝導体では高圧力下において量子振動が検出できた例は極めて少ないため、本研究結果から得られる電子状態の圧力変化の情報は非常に重要である。測定には3.2GPa発生可能なピストンシリンダー型高圧力発生装置を利用し、常圧でSdH振動が検出された純良単結晶試料を磁場方向B||cとなるようにセットした。常圧ではSdH振動数が(a)340T及び(b)400Tにフーリエスペクトルのピークが現れることが分かった。様々な温度でSdH信号の振幅を測定することにより、ピークa及びbに対応する有効質量がそれぞれ1.6m_e及び2.0m_e(m_eは自由電子質量)と見積もられた。圧力を印加すると、ピークa及びbのSdH振動数は共に単調増加を示し、1.7GPaではそれぞれ670T及び800Tとなった。同様に、電子有効質量も圧力増大により単調増加を示し、ピークaは1.7GPaで3.2m_e及びピークbは0.9GPaで2.9m_eとなった。ただし圧力増大により磁気抵抗が急激に減少していくため、1.7GPaより高い圧力領域では20Tまでの測定では不明瞭なSdH振動しか得られず、フーリエスペクトルのピーク位置やその振幅の決定には至らなかった。量子振動測定用高圧力発生装置の開発に関しても進展があった。EuFe_2As_2の圧力誘起超伝導消失後の高圧力下における電子状態を明らかにするには、現装置の最高圧力3.2GPaを超える高圧力が必要となる。そこで、装置の主要材料であるNiCrAl合金の硬度が熱処理温度により大きく変化することに着目し、異なる温度で熱硬化処理を行った3種類のピストンシリンダー型高圧力発生装置を作成した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、高圧力下SdH振動測定によりEuFe_2As_2の高圧力下量子振動の検出に初めて成功した。1.7GPaまでの測定から、圧力増大によりEuFe_2As_2のSdH振動数及び電子有効質量が単調増加を示すことが明らかになった。4GPa級高圧力発生装置の開発に関しては、NiCrAl合金の最適な熱硬化処理温度を見出すために、熱硬化処理温度の異なる3種類のピストンシリンダー型高圧力発生装置の作成を行った。これらは研究計画に即した進展であり、「本研究はおおむね順調に進展している」と考えられる。
EuFe_2As_2の高圧力領域では、磁化に現れる量子振動であるドハース・ファンアルフェン(dHvA)振動の方が検出しやすい可能性がある。従って次年度は、EuFe_2As_2の高圧力下dHvA効果測定を試みる。加えて、今年度作成した高圧力発生装置の圧力テストを行い、最大発生圧力及び圧力効率を調べ、NiCrAl合金の熱硬化処理温度の最適化を行う。これまでに得られた測定結果について十分な議論を行い、論文執筆や国内外での学会発表も行う。
高圧力発生装置の消耗品の購入及び学会参加費用に使用する。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
Journal of Physics: Conference Series
巻: 391 ページ: 012132 (1-4)
10.1088/1742-6596/391/1/012132
巻: 391 ページ: 012133 (1-4)
10.1088/1742-6596/391/1/012133
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Physical Review B
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