研究課題/領域番号 |
23740280
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
野村 拓司 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門 量子ビーム物性制御・解析技術研究ユニット, 研究員 (90373240)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | スピン三重項超伝導 / Sr2RuO4 / dベクトル |
研究概要 |
当該年度は初年度であることもあって、準備段階の作業と計算技術の習得に主な時間と労力を費やすことになったが、具体的には以下のような段階まで到達した。まず、第一原理計算コードWIEN2kを用いてルテニウム酸化物超伝導体の電子状態を作成した。このWIEN2kによるバンド構造をWien2Wannierコードを用いてフィットし、最局在Wannier軌道をWannier90コードを用いて求めた。この結果を用いて、フェルミ準位近傍の電子構造を精密に再現するタイトバインディング模型を構成することに成功した。具体的にはRu4dxy、yz、xz、軌道とそれらに混成するinplane、およびapicalな酸素の2p軌道を考慮した15バンドのdp模型を構成した。その上でRu4d軌道間のスピン軌道相互作用を導入し、エリアッシュベルグ方程式を数値的に解く計算コードを作成し、固有値を求める計算を実施してきた。先行研究では、単純にRu4d軌道のみを考慮した模型やapical酸素の存在を無視した模型を用いて行われてきたが、そこで無視されている軌道混成がスピン軌道相互作用と比較して必ずしも小さくないことが明らかになった。また、波数空間におけるRu4d電子の密度分布も、単純な模型とは一致しない。これらのことは、先行研究で求められたdベクトルの方向や磁気異方性が定性的にも正しくない可能性を秘めている点で重要である。現段階でdベクトルの方向を断定することはまだできないが、引き続き精密な解を求める必要がある。このような第一原理計算による電子構造に基づく精密な研究が、今後スピン三重項超伝導研究において重要な方向となることを総説論文において指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗がやや遅れている理由として、当該年度の前年度(22年度)から実施していた共鳴非弾性X線散乱の研究が当該年度にずれ込んできたため、当初の予定よりも本研究にかけるエフォートが低下した点がある。また、具体的な研究の実施内容にも理由がある。頒布されているWannier90やWien2Wannierなどの計算コードをそのまま使用すると、パラメータが本来持つべき対称性が精度よく保たれない、必要な精度の数値結果が出力されないなどの不具合がある。このため、Fortran90で書かれたこれらのソースコードの中身を理解し書き換える、あるいは新たな補助プログラムを作成するなど、当初予測されなかった作業が生じたことが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画した研究を順序通り実施していく。具体的には、まず当該年度に求めた多バンドdp模型に基づいて、現在実行中の数値計算を完了し、dベクトルの異方性を確定する。同じ模型を用いて、「正常状態の大きな磁気異方性」を説明することを目指す。その後、「転移温度以下におけるdベクトルの安定性」、および「超伝導状態における磁気的性質の研究」に移っていく予定である。この間、京都大学の研究者と議論を行いながら実施する。次年度は、当該年度と異なり、並列に実施する研究テーマが減るため、当初予定していたエフォートを保てる見通しである。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画として、物品費、旅費ともに当初の計画と同じ必要額(それぞれ20,0000円ずつ)を見込んでいるが、所属研究機関から支出される研究費、旅費の大幅な削減により、具体的な用途は当初の申請のものから変更する予定である。具体的には、国内旅費が不足する見通しのため、海外旅費ではなく数回分の国内旅費として使用する予定である。物品費に関しては、当該年度の数値計算の進捗状況から考えて、数値計算の高速化が希望されるため、主に計算機のメモリ増設に充当する予定である。
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