Sr2RuO4における超伝導対称性(特にdベクトルの異方性)を精密に解析するために、第一段階として第一原理計算(WIEN2k)によるバンド構造を精密に再現する有効模型(15バンドdp模型)を構築した。この模型を用いて、有効相互作用をRu4d電子間に働くクーロン積分について3次までの摂動論で計算し、エリアッシュベルク方程式を数値的に解くことによって超伝導対称性を解析した。その結果、スピン三重項p波超伝導状態が安定になるクーロン積分パラメタの範囲は極めて限られ、広範囲ではスピン三重項p波状態よりもむしろ一重項d波状態が安定になる結果となった。このことは、第一原理計算による電子構造に問題があるか、あるいは、スピン一重項d波超伝導状態である可能性がいまだ否定できないことを示唆しており重要である。 スピン三重項p波状態については、Ru4d軌道におけるスピン軌道相互作用を導入することによってdベクトルの縮退を解き、そのもっとも安定な向きを求めることができた。その結果は、dベクトルがRuO2面に対して垂直なカイラル状態とdベクトルがRuO2面に平行な4状態が僅差で競合するが、広範囲のクーロン積分パラメタで前者が安定になることが明らかになった。これは、単純な模型による先行研究の結果と整合する結果であるが、より精密な電子構造で確認できたことが重要である。 乱雑位相近似などを用いて磁気異方性を解析した。一様帯磁率の異方性、インコメンシュレートな揺らぎの異方性について、実験で得られるような大きな異方性を定量的に再現することはできなかった。このことは、より局在性を取り入れた解析が必要であることを意味しており、今後の重要な課題となるであろう。
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