本研究では、熱勾配や局所磁場によって駆動される非平衡系のスピン波について解析を行った。特に、熱勾配によってスピン波が発生する「スピンゼーベック効果」について理論的な解析を行った。強磁性体中の磁化の運動を表すLandau-Lifshitz-Gilbert (LLG)方程式を、温度勾配を有する系において数値的に解いた。これにより強磁性交換相互作用由来のスピン波が温度勾配によって誘起されていることを示した。また、強磁性体からプラチナ電極に入射されるスピン流を表す表式を導き、逆スピンホール効果を用いて得られる観測可能な電圧を定量的に求め、実験結果との良い一致が得られた。この研究結果をPhys. Rev. Bに投稿し掲載された。また、この研究結果について、仙台で行われた応用物理学会磁気学会共催のスピントロニクス研究会において招待講演を行った。 次に、表面スピン波によって運ばれる熱流について解析を行った。その結果、指向性を持つスピン波を利用することで、強磁性体中の熱拡散をコントロールできることが明らかになった。具体的には磁化の運動を表すLLG方程式を、双極子相互作用を正確に取り入れて数値計算を行い、マクロな系での表面スピン波を再現し、緩和項を導入することで熱発生のメカニズムを明らかにした。この結果は、Nature Materials誌に掲載された。 次に、異なる飽和磁化を持つ2種類の磁性体の超格子構造を考え、そこに発生する表面スピン波の研究を行った。このスピン波は、スピンブロッホ関数の幾何学的な性質を反映した指向性を持ったものである。3角格子を始めとした様々な超格子構造でのスピン波を解析し、実験系の提案を行った。研究結果はPhys. Rev. B誌に掲載された。
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