研究課題
本研究は、電荷秩序を示す有機導体beta-(meso-DMBEDT-TTF)_2PF_6の圧力誘起超伝導における電荷ゆらぎの役割を明らかにすることを目的とする。電荷秩序相と超伝導相が共存する本物質では、特に超伝導発現機構に興味が持たれている。比較的弱い圧力で電荷秩序が抑制され、超伝導が現れるため、電荷ゆらぎの超伝導発現機構における役割を解明するための最適な物質といえる。電荷ゆらぎは電荷秩序の抑制に伴う超格子散漫散乱として検出する。このためには、圧力下で散漫散乱を観測可能な低バックグラウンドの圧力セルと、超伝導転移温度よりも低温まで測定可能な冷凍機が必要となる。研究計画初年度である平成23年度は実験装置開発を主に行った。バックグラウンド低減型圧力セルとして作製したPBI圧力セルのクランプ圧力温度依存性を、既存のGM冷凍機を用いて確認した。この際、これまで18 Kだった到達最低温度を、コールドヘッドと圧力セルの接合部分を改良することで8 Kに改善した。次に予備実験として、試料を封入した状態で圧力を印加せずに冷却し、超格子反射が圧力セル中の試料から観測可能かどうかの確認を行った。結果、最低温では超格子反射をブラッグ反射の二桁落ち程度の強度で観測できた。また、回折実験と同時に測定できる電気抵抗率測定装置の立ち上げも行った。次年度はこれらの実験装置と新たに作製する極低温冷凍機を用いて、圧力下超格子散漫散乱の観測を目指す。
3: やや遅れている
冷凍機の設計が固まらず、開発にやや遅れが生じているが、既存の冷凍機の輻射シールド等を改良することで、到達最低温度を18 Kから8 Kに改善して予備実験を行えた。この温度は冷凍機のコールドヘッド温度とほぼ同じ温度であり、このノウハウを活かした設計を行い、目標の到達温度を実現する予定である。実験装置開発に関しては、圧力セルはほぼ満足できるものが出来上がり、電気抵抗率測定装置も前倒しで立ち上げを行っているため、残すは冷凍機のみである。
極低温冷凍機の設計を詰めて作製を行う。平行して、圧力下試料の回折・電気抵抗同時測定の予備実験を行う。次に、圧力下超格子散漫散乱測定を徐々に印加圧力を増しながら最低温まで行い、電荷秩序の超伝導における役割を明らかにする。
当初の計画を変更し、圧力セル開発と次年度に予定していた電気抵抗率測定装置立ち上げを優先して行ったため、極低温冷凍機作製用予算に未使用額が生じた。電気抵抗率測定装置分の次年度請求額と、前年度繰越額を合わせて極低温冷凍機を作製するために使用する。圧力セルおよび、電気抵抗率測定装置は概ね完成しているため、使用計画は冷凍機作製が主で、他には各種消耗品等の予定である。
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