本研究の目的は、常圧電荷秩序相から圧力誘起超伝導相へと転移する有機導体において、電荷揺らぎがどのような役割を担っているかを明らかにすることである。超格子散漫散乱を観測することで電荷揺らぎを直接検出するために、新たにバックグラウンドを低減した単結晶構造解析用圧力セルを開発し、放射光X線回折計へ搭載可能な極低温冷凍機を作製した。これらの装置を用いて以下のような実験を行った。 有機導体beta-(meso-DMBEDT-TTF)_2PF_6は常圧ではT_c=70Kで電荷秩序化する。圧力を印加することで電荷秩序相は抑制され、比較的低圧である0.6kbarで、電荷秩序と共存するT_c=4.6Kの超伝導体となる。圧力下において電気抵抗率測定やラマン散乱測定などが行われているが、常圧で存在する電荷秩序が超伝導発現機構にどのような役割を担っているかは明確ではない。電荷ゆらぎの役割を明らかにすることは、超伝導体研究においても重要な知見を提供すると考えられる。 常圧で存在する電荷秩序は超格子反射として観測されているが、圧力印加によって抑制することで散漫散乱へと変化していくことが期待される。しかし、PBIシリンダー圧力セルを用いて低温圧力2kbarを印加し、ヘリウムフロー式冷凍装置によって5K程度まで冷却して回折実験を行ったが、超格子散漫散乱は明確には観測されなかった。この結果が、本質的に電荷秩序が存在しないのか、バックグラウンドがまだ高いために観測できないのかは明確ではない。また、電荷秩序と超伝導の共存領域では、T_cは4K程度であるが、圧力セル自体の温度はこれより若干高めであった。冷凍装置の最低温部は3.7K程度なので、装置に改良を施すことでT_c以下までの冷却は可能と考えられる。散漫散乱の有無を明確にするために、圧力セルの最適化を行い、4K以下で圧力誘起超伝導相の構造解析を行う予定である。
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