研究課題/領域番号 |
23740286
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
内田 就也 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10344649)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 繊毛 / 鞭毛 / 流体力学 |
研究概要 |
研究実施計画に従って、繊毛のモデル及びバクテリアカーペット(鞭毛多体系)のモデルを構築した。繊毛については、周期的に変動する剛体球回転子の直線的(1次元的)配列および平面的(2次元的)配列における動的パターンを、理論解析および数値計算によって調べた。理論解析においては、駆動力の変動振幅について1次までの近似において、進行波パターンの安定性条件を求めることができた。また駆動力の変動が大きい場合の動的パターンを数値シミュレーションによって求めた。その結果、直線的配列においては進行波が存在することが示されたが、平面的配列においては進行波のみならず秩序的なパターンは見られず、一見ランダムだが異方的な方向相関を持つ動的定常状態に陥ることが示された。ゾウリムシに見られるような繊毛の平面的配列における進行波を再現するため、モデルを拡張する必要性を現在検討している。バクテリアカーペットについては、個々の鞭毛の基盤への固着による回転自由度の制限を現象論的なランダム場としてモデルに導入した。さらに、実験系で見られている鞭毛のからみ合いを表現するため、近接引力相互作用をモデルに導入した。このモデルを用いた数値シミュレーションの結果、渦状の流れが散在する空間パターンが得られた。これは実験系で見られる空間パターンに定性的に類似しているが、より詳細な比較検討を進めている。また長距離流体力学相互作用の数値計算を高速化するため、汎用画像処理プロセッサを用いた並列計算(GPGPU)環境を構築した。GPGPU 専用ワークステーションを導入し、一般的な並列計算プログラムの作成方法を習得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
繊毛のモデルにおいては、理論解析、数値計算ともおおむね当初計画通りに進んでいる。ただ、平面的配列において進行波、ラセン波などの秩序パターンが見られなかったことは予想外の結果であり、ゾウリムシのメタクローナル波の再現に向けて、さらにモデルを拡張する必要があると思われる。バクテリアカーペット(鞭毛多体系)については、モデル構築、数値計算とも当初計画通りに進んでいる。数値計算については、当初計画にあったワークステーション本体に加え、画像処理プロセッサを前倒しで購入したため、実機を用いて GPGPU 専用並列計算プログラムの作成方法を習得することができた。
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今後の研究の推進方策 |
繊毛のモデルについては、平面的配列における進行波の再現、動的相図の作成を目指して、現在のミニマルモデルを拡張する。具体的には、繊毛の弾性変形による流体駆動の効果を、剛体にアクティブポンプを付加することで表現する。バクテリアカーペットについては、鞭毛の排除体積効果を取り入れて、液晶相転移(方向秩序の形成)が起きる可能性を検討する。さらに排除体積効果と流体相互作用、からみあい効果の競合によって、実験で見られる複雑な空間パターンを説明、再現する。また、多体系の数理的解析の基礎となる、長距離(べき乗型)相互作用を持つ結合振動子系の一般理論を展開する。既に応募者が開発した摂動論的方法を用いて、空間相関の解析を摂動の2次まで進める。さらにこの結合振動子の1次元格子および2次元格子について数値計算を行い、理論予測と比較する。数値計算においては、以上のそれぞれの系について GPGPU 専用並列計算プログラムを作成し、従来より高速かつ大規模な計算を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
共同研究者の Ramin Golestanian 氏(Oxford 大学) と研究打ち合わせを行うため、英国に渡航する。また国内1件以上、海外2件以上の研究集会に出席し、研究成果発表を行う。GPGPU 並列計算用の画像処理プロセッサを増強する。
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