京コンピュータを用いて得られた計算データを解析することで、気泡生成における気泡体積変化率の計算に成功した。Ostwald成長において、どのくらいの体積を持つ気泡がどれだけ変化するかを記述する気泡体積変化率(Kinetic Term)は中心的な役割を果たすが、1次までの近似の範囲内では気泡分布関数から直接求めることができない。そこで、気泡体積変化率の定義に立ち返り、系内に存在する気泡の体積変化を全て追跡することで、気泡体積変化率関数を直接推定することに成功した。これにより、Kinetic Termが古典論による予測と良い一致を示すこと、ダイナミクスのボトルネックの違いも反映していることを確認し、さらに古典論から予測される関数形をフィッティングすることで、それぞれの時刻における臨界核サイズを極めて高精度に求めることに成功した。気泡生成系におけるKinetic Termの直接推定は初めてであり、より精密な議論が可能となった。さらに「京」フルノードを用いた137億粒子計算により、多重気泡生成の初期ステージにおける系の圧力が非一様であることの直接的な証拠を捉えることにも成功した。古典核生成論が、液滴生成率に比べて気泡生成率の予言に大きく失敗する原因は長らく未解決であったが、急減圧直後から気泡生成の初期過程における圧力の非一様が原因の一つであることが強く示唆された。急減圧直後においては圧力が非一様的であるが、その後気泡が成長し、Ostwald成長をはじめると、系内の圧力がほぼ一様とみなせる領域になり、平均場的取り扱いが正当化される。これが古典核生成理論による気泡成長率の予言は失敗するが、同様な仮定を置くLifshitz-Slyozov-Wagner理論が気泡のOstwald成長を正しく記述できる理由であるとわかった。
|