研究課題/領域番号 |
23740290
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
村山 能宏 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (60334249)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 揺らぎと応答 / 能動的揺らぎ / 周波数応答 / ボルボックス / 走光性 |
研究概要 |
平成23年度は,光刺激に対するボルボックスの応答を観測するための測定系を構築し,正弦波光刺激を与えた場合の運動と,刺激なしの場合の運動の観測を行った。幅5mm程度のシート光を試料容器の双方向から照射し,ボルボックスの散乱光を観測することにより,ボルボックス個体の運動を鮮明に捉えることが可能となった。これにより,画像取得から1個体の速度の算出までをほぼ自動化することに成功し,大量のデータ解析が可能となった。この測定システムを用いて,双方向からの光強度の勾配が正弦波となる刺激を与え,その周波数を変化させることで,光刺激に対する周波数応答関数を得ることに成功した。さらに,刺激なしの場合の揺らぎを観測した結果,ボルボックスが示す能動的揺らぎと光刺激に対する応答には,揺動散逸関係に類似した関係があることを示唆する結果が得られた。この結果は,生物が示す"能動的揺らぎ"と"外力に対する応答"にも,熱揺らぎに起因した物理現象と類似の関係が存在する可能性を示唆している。この結果の確証を得るためには,今後揺らぎの大きさを広い範囲で系統的に変化させて測定を行う必要がある。また,擬二次元的に閉じ込めた容器内では,ボルボックス個体の運動に概ね5つのパターンが現れることを発見した。さらに,速度の時間変化を詳細に調べた結果,ボルボックスの自発運動の変化を,速度が速いfast状態と速度が遅いslow状態の2状態遷移と捉えることが可能であることを突き止めた。状態遷移率の個体数密度依存性から,運動状態の遷移には個体間の流体力学的相互作用が影響していると考えられる。前述の3次元系および後述の擬2次元系の結果は,個体・集団レベルの生命現象における統計力学的性質を探るにあたり,ボルボックスを用いた本実験系が有益なプロトタイプとなり得ることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り測定系を構築し,光刺激に対する周波数応答関数および刺激なしの場合の揺らぎについてのデータを得ることができていることから,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今までに得られた"能動的揺らぎと応答の関係"に関する結果の確証を得るために,揺らぎの大きさをより広い範囲で系統的に変化させて測定を行うとともに,次年度に予定していた個体間相互作用の定量化に着手する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は,ボルボックスの培養に必要な消耗品の購入サイクルのずれにより生じており,次年度においてこれらの購入費として用いる。
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