研究課題/領域番号 |
23740294
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
内海 裕洋 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10415094)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 非平衡・非線形物理学 / メゾスコピック量子輸送 / 半導体ナノ構造 |
研究概要 |
本研究に先立ち、我々はGaAs/AlGaAs半導体2次元電子系に作られた量子ドットと電子波干渉計を用いて、電気伝導における揺らぎの定理の実験検証を実験グループと共同でおこなっている。その結果、非測定系(量子導体)は測定回路の影響を強く受けており、2つを分離しては実験結果が説明できないことを見出した。本研究の目的は、量子導体の電気伝導において、測定回路が揺らぎの定理に与える影響を明らかにすることである。平成23年度は、電子波干渉計をもちいた量子揺らぎの定理の検証実験を念頭に研究を進めた。量子系では電流の確率分布の定義にあいまいさが残るうえ、原理的に測定可能かどうか、といった問題もある。さらに原理的に観測可能でも、測定器の反作用のために測定した情報が失われてしまう可能性もある。そこで、我々は光学トラップに閉じ込められたコロイド粒子の揺らぎの測定の実験とのアナロジーで、LC共振回路と結合した電子波干渉計を考えた。このセットアップでは、LC回路は古典回路なので、その電圧揺らぎは原理的にあいまいさなく測定できる。まずLC回路にした仕事は量子系にしか散逸できないため、古典系の仕事の確率分布は、量子導体で発生するジュール熱の確率分布、つまり電流の確率分布と等しくなることを示した。そして、このとき現れる電流の確率分布は完全計数統計理論で定義される確率分布と一致することを確認した。またLC回路のダイナミクスを微視的ハミルトニアンから導出した結果、それは非ガウス白色雑音のはたらくLangevin方程式で記述されることを示した。非ガウス性は量子導体のショット雑音に起因する。さらにこれらのプロセスは仕事揺らぎの定理とコンシステントであることも示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子波干渉計は外部環境とくにGaAs基板中のランダムな電荷トラップによる1/fノイズの影響をうけるため,電流揺らぎの測定において、LC共振回路を用い1/fノイズをフィルターして数MHzの信号をとりだしている。以前の揺らぎの定理の検証実験では、理論値から2~3倍のずれが観測されたが、その原因の一つはこのフィルター回路の反作用と考えられる。平成23年度に得られた結果から、実験のセットアップは変えず測定方法を変えることで、量子揺らぎの定理の定量的な検証ができることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の問題意識は量子系における揺らぎの定理の実験で見られた理論値からのずれを解明することである。平成23年度は量子系の測定の観点から研究を進めてきたが、研究を進めてゆくうえで、新たな知見も得られた。今年度の結果から、古典測定回路のダイナミクスは、量子導体中の電子系のダイナミクスに比べて遅いために非ガウス白色雑音のLangevin方程式で書けることが分かったが、この系での揺らぎの定理は、揺らぎのエネルギー論の分野で研究がされている。今後はこの観点からも研究を推進することを念頭に、Langevin方程式の数値シミュレーションの環境整備に着手している。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は数値シミュレーションシステムの整備に着手した。平成23年度次年度使用分も含めて次年度以降でさらにソフトウエアなどを購入し充実を図る予定である。さらに国内の学会や、国際会議の参加費や出張費、また研究者招待セミナーの謝金や交通費として使用する予定である。また専門書や電子ジャーナルなど情報収集に利用する計画である。
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