研究課題/領域番号 |
23740294
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
内海 裕洋 三重大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10415094)
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キーワード | 国際情報交換 ドイツ / 非平衡・非線形物理学 / メゾスコピック量子輸送 / 半導体ナノ構造 |
研究概要 |
平成24年度以降の計画の一つは、2重量子ドットにおける量子ポイントコンタクトをもちいた時間分解電荷計数の実験について、測定回路を含めた全系で成り立つ揺らぎの定理の構築することである。これに関して、平成24年度も実験グループと共同研究をつづけた。スプリットゲート法と走査プローブ法を用いてサンプルを作成することで反作用を抑制し、バンド幅の効果を補正も行った。そして電流の確率分布を測定した結果、理論とのきわめてよい一致を得ることができた。そして新たに揺らぎの定理から予言される、2次の非線形コンダクタンスとノイズの線形応答に関する、非線形応答領域に拡張したジョンソン・ナイキストノイズの関係式を実証し、成果を論文にまとめた。 また、平成23年度に引き続いて、量子干渉計と結合した古典LC回路の仕事確率分布の理論を実験と共同で論文にまとめた。これ通じ,LC共振回路の影響つまり量子導体への反作用(古典LC回路による断熱的な散逸電流のポンピング)は,むしろ揺らぎの定理の成立を保証することが明らかになった。当初の計画では、平成24年度以降は,実験との比較のため、電流の期待値や揺らぎなどの物理量を計算する予定であったが、この方針では実験との違いが説明できないので、現在検討を重ねている。 また、量子導体と結合した古典LC回路が,非ガウス白色雑音のLangevin方程式で記述できることを平成23年度に確立したが、この成果を「揺らぎのエネルギー論」の観点からとらえ直す研究にも着手している。まずLangevin方程式の数値シミュレーションのプログラムの開発を行い,開発したコードを,例としてナノ磁性体のスピントルクおよび熱揺らぎの問題に当てはめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度から続けている実験グループとの共同研究において、2重量子ドットと量子ポイントコンタクト全系での揺らぎの定理について、実験と理論の定量的な一致を見出すことができた。一方で「揺らぎのエネルギー論」の研究とのつながりを見出し、Langevin方程式の数値シミュレーションの成果を出して論文として出版することができた。 平成23年度に量子干渉計を用いた実験について、セットアップは変えず測定方法を変えることで、量子揺らぎの定理の定量的な検証ができることを示したが、平成24年度にはその成果を論文にまとめた。その過程で,以前の揺らぎの定理の検証実験で観測された、理論値から2~3倍のずれの原因を詳細に検討した。そして、ずれの原因が1/fノイズのフィルター回路(LC回路)の反作用の外にあることが明確になってきた。現在は、オーバーヒーティングの効果を検討している。これらを理由としておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の根本的な問題意識は量子系における揺らぎの定理の実験で見られた理論値からのずれを解明することである。それに関して,2重量子ドットと測定回路の結合系での揺らぎの定理については、実験技術の進展により不一致が解消された。一方、電子波干渉計を用いた実験において、当初ずれの原因と考えた1/fノイズフィルターを含む測定回路の反作用が、揺らぎの定理を破るのでなくむしろ揺らぎの定理が成り立つために必要であることが明確になってきた。原因を今後も検討していくが、最近、実験で電子がフォノン系にエネルギーを逃がして緩和する過程で、電子とフォノンが非平衡状態になる効果(オーバーヒーティング)が観測されている。それが原因でないかと考え、次年度の検討の対象としたいと考えている。 また「揺らぎのエネルギー論」とのつながりを明らかにする方向も徐々に推進していきたいと考えている。揺らぎのエネルギー論は分子機械の効率評価において成功を収めており、固体電子量子素子への適応も有望と考えている。ナノ磁性体を取り上げた動機の一つは,スピントルクは非保存力であり、Hatano-Sasa等式とよばれる関係式の実験対象となりうると考えるからである。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度はおもに平成23年度の成果を論文としてまとめることに注力した。残額に関しては、シミュレーション環境を強化するためにMatlabまたはMathematicaなどの数値処理プログラムを導入する予定である。また海外を含めた学外研究者を招聘して共同研究を強化したいと考えている。
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