申請時の研究実施計画は、「A) 電子波干渉計について,測定回路(LC共振回路)の量子揺らぎの定理に及ぼす影響を理論的に明らかにする」と「B) 量子ドットと測定回路(量子ポイントコンタクト電位計)の結合系でなりたつ量子揺らぎの定理を構築する」の2点である。 A)平成24年度までに、電子波干渉計とLC回路の結合系における揺らぎの定理の理論を構築し、電子波干渉計の実験においては測定回路の反作用が、揺らぎの定理を保証することを明らかにした。これは当初の予想に反しており、測定装置の反作用に実験と理論のずれの原因を求めることは難しいことが分かった。そこで平成25年度は、新たに非平衡電流による電子系の加熱の効果を検討し、熱電効果が実験のずれの傾向を説明できる可能性があることを示した。今後、より詳細に検討する計画である。 B)平成23年度に量子ポイントコンタクトの反作用を制御することに、実験グループが成功したため、理論と実験の定量的な一致を得ることができた。また量子ドットと量子ポイントコンタクト結合系について、非線形応答領域に拡張したジョンソン・ナイキストノイズの関係式も実証された。よって、申請時の目的「測定回路も含めた揺らぎの定理を構築する」を達成できたと考えている。 以上から、B)については量子導体と測定回路の結合系の揺らぎの定理の研究が、非平衡量子電気伝導の測定精度向上に役立ったといえる。A)については測定精度向上への指針を与えたという意義を持つ。また精度向上以外に揺らぎの定理を役立てることを目指して、非平衡電流誘起スピントルクによるナノ磁性体の反転について、平成24年度は数値シミュレーション、平成25年度は解析的手法を用いて研究を行っている。今後、より広範なメゾスコピック量子系の非平衡現象に揺らぎの定理を適用する計画である。
|