水に微量の高分子をとかした稀薄高分子溶液(粘弾性流体)では、流れの非線型性が弱い(低レイノルズ数)場合でも流れが乱流状態になることが実験的に知られている。この粘弾性流体特有の低レイノルズ数乱流は弾性乱流と呼ばれ、様々な性質が実験的に明らかになっている。特にニュートン流体の乱流との共通点と相違点が注目されている。本研究の目的は、実験と同様の条件で数値計算を行い、この弾性乱流の物理的機構を探ることである。 実験では粘弾性流体がはいっている容器の曲率が重要であるとみなされている。実験が行われた系のうち、同心二重円筒容器(内円筒が回転)と蓋が回転する円筒容器の二つの系の数値シミュレーションが本研究の最終目的である。ここで粘弾性流体方程式(ここではFENE-P方程式を用いる)の正確な数値計算には、数値的不安定性を回避のために複雑な数値技法が必要である。こうした技法の実装と他パラメータの評価を目的として初年度には、実験とは大きく異なるが、周期境界条件でのスペクトル法による数値計算を行った。この結果、弾性乱流が数値的に再現され、必要なワイゼンベルク数などのパラメータについて知見を得た。また、弾性乱流のエネルギースペクトルのべき則などが高分子構造テンソルの特異的な伸張と圧縮に基いて理解できることが判明した。 最終年度においては、先述の二つの系の境界条件で数値計算を行うために、埋め込み境界法の一種である volume penalization 法をスペクトル法と共に行うプログラムを開発した。しかしながら、前年度の経験に基いて広範な数値パラメータ領域でおこなったものの、数値計算では乱れた流れが生じなかった。この原因としては、埋め込み境界法が小さな時空間スケールの変動を制限していると考えられる。つまり、この場合には非常に大きな時空間解像度が弾性乱流再現のために必要と考えられる。
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