本研究は、水面を自発的に滑走する樟脳船の集団に現れる秩序構造の発見と解析を目的として行った。樟脳船を円形の擬一次元水路に多数浮かべると時空間的な周期構造を示す。この機構を数理的に詳しく解析するために、樟脳船からの分子供給速度や昇華速度などの基礎データを測定すること、そして新たな集団運動の発見のために2次元水面における樟脳粒の集団の観察を行った。 初年度は表面張力計を導入し、樟脳船の周囲における表面張力の空間勾配を計測するとともに、可視化粒子を用いて2体の樟脳船の周囲における対流構造の観察を行った。この結果、表面張力および対流の2つの視点から2体の樟脳船の間にはたらく相互作用を明らかにした。表面張力の空間的な分布については、樟脳船周囲における樟脳分子のふるまいに立脚した数理モデルの解析を行い、そこから得られた結果を踏まえることで、より正確な相互作用の導出を行った。また、複数の樟脳船が塊で運動するクラスター状態の出現が、樟脳船単体の速度および相互作用範囲に依存する事を示唆する結果を得た。 さらに、2次元系における樟脳船の集団運動の観察も行い、数密度がある一定以上に増えると停止と運動を周期的に繰り返す間欠運動が現れることを発見した。一定数以上になると樟脳船は動かなくなることは既に知られていたが、間欠運動の発現は新たな集団運動の発見である。最終年度にこの発見を詳しく調べた。具体的には、ゲルシステムを用いて樟脳濃度をコントロールし、加えて水相をに工夫を加えて樟脳粒の数が増えても水相の樟脳濃度の増加を抑えることに成功した。この新たなシステムを用いて系統的に観察を進め、樟脳粒の間欠運動が粒周縁長の長さに依存していること、数が多いときには間欠運動が同期することを明らかにした。
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