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2012 年度 実施状況報告書

変形と回転の幾何学に基づく複雑分子システムの集団運動と機能の解明

研究課題

研究課題/領域番号 23740300
研究機関早稲田大学

研究代表者

柳尾 朋洋  早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (40444450)

キーワードクラスター / DNA / 分子モーター / シグナル伝達 / 宇宙ミッション / 非線形科学 / 非平衡統計力学 / 国際情報交換 アメリカ合衆国
研究概要

本年度は,非線形力学,非平衡統計力学,幾何学の手法を用いて,原子分子集合体や生体高分子などの複雑分子系の集団運動の仕組みを解明する研究を進めた.さらに,より高次の複雑系である生体分子モーター,細胞,社会ネットワーク,宇宙ミッションのダイナミクスに関する理論的研究を発展させた.その主な成果は以下の通りである.
まず,本研究で開発している超球モード解析と呼ぶ多体系の振動・回転運動の解析手法を用いて,原子集合体の構造異性化と解離のメカニズムを解析した.その結果,本年度は特に,系の質量分布がオブレートやプロレート,球,のように高い対称性を獲得する瞬間に,急激な内部エネルギー移動が生じ,系の大規模構造変化の引き金が引かれることを明らかにした.
また,DNAの粗視化モデルを計算機上に構築し,DNAはその二重らせん構造に起因して,熱ゆらぎの影響下で自発的にカイラル対称性を破った構造を選択する傾向があることを明らかにした.また,生体分子モーターの運動原理を解明する準備として,Brown運動下のラチェットモデルを構築し,ミクロなゆらぎから一方向運動が生じる仕組みを検証した.また,細胞間シグナル伝達の数理モデルを取り上げ,確率共鳴によって生じる集団的な発火現象を確認した.
また,宇宙ミッションへの応用として,制限3体問題を扱い,Lagrange点近傍に存在するhalo軌道やquasi-halo軌道の立体的な構造を解析し,それぞれの軌道に離散力学と最適制御の手法を適用することで,軌道制御に用いるエネルギーを最適化した低エネルギー型のフォーメーションフライトの可能性を示した.さらに,Lagrangian coherent structuresと呼ばれる非線形力学の手法を応用することによって,円および楕円制限3体問題において輸送を支配する安定・不安定多様体(チューブ)の構造を抽出した.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

原子集合体の集団運動に関する研究に関しては,今年度は,超球モード解析を用いて,2つだけではなく3つ以上の局所平衡構造を有する複雑な系の構造異性化運動の発生メカニズムを解析できた点が進歩であった.また,構造異性化運動だけではなく解離運動の力学的機構を超球モード解析の視点から理解できた点も進歩であった.
また,DNAおよび分子モーターの機能発現やシグナル伝達に関する研究については,微視的世界に特徴的な熱ゆらぎが果たす積極的な役割を探求できた点が新たな進展であった.
制限3体問題に基づく宇宙ミッションの研究については,昨年度までは天体の重力場下での自由運動の解析が主であったが,今年度は,離散力学と最適制御の手法を取り入れることによって,宇宙機の軌道をさらに効率化する手がかりをつかめた点が進歩であった.また,Lagrangian coherent structuresの手法を用いることで,円だけではなく楕円の制限3体問題における輸送機構を解析できるようになった点が進歩であった.

今後の研究の推進方策

次年度は,まず超球モード解析を適用して,水分子クラスターやフラーレンなど,より高次元の複雑分子系の集団運動の発現機構を解析する.さらにこれら分子系の集団運動の速度過程を明らかにし,反応を制御する方法を探求する.特に,高次元分子系の運動を低次元の相空間に縮約した上で,Lagrangian coherent structuresの手法を用いて,反応速度を決定する予定である.
また,らせんのカイラリティに起因して生じる新奇な分子間相互作用によって,DNAが効率的に階層的折り畳み構造(クロマチン)を形成し機能を発現する仕組みを明らかにする.また,分子モーターの運動機構を探る研究においては,ラチェットモデルに関するこれまでの知見をふまえた上で,より現実的な分子レベルでのモデル化を行い,分子モーターが機能する際に生じる幾何学的位相の効果を追求する.
制限3体問題に基づく宇宙ミッションの研究については,次年度は特に,ラグランジュ点のまわりのhalo軌道とその近傍の軌道群を用いたformation flightの設計をより実用的なレベルへと発展させる.また,円および楕円制限3体問題における不変多様体の構造を用いて,宇宙機のエネルギー制御の方法を探求する.さらに,これら宇宙ミッションの設計に関する研究で得られた知見を,複雑分子系のダイナミクスの理解へと還元する.

次年度の研究費の使用計画

次年度は,上述のように,これまでよりもさらに高次元系のダイナミクスを扱うため,計算機環境をさらに充実させる必要がある.また,本研究は,分子科学,生命科学,天体力学,非線形科学,統計力学,応用数学などの,多岐の学問分野に跨がる研究であるため,広範囲の情報収集が不可欠である.そこで,書籍,データ,ソフトウェアを購入するための予算,さらに情報収集のための出張旅費,講師を招聘するための予算が必要となる.また,本研究には多くの学生の参加が見込めるため,学生用の研究資材(計算機,書籍等)や出張旅費の充実も不可欠である.さらに,本研究は,国内および海外の研究グループとの共同研究に基づいているため,これらのグループと打ち合せをするための旅費が必要となる.また,研究成果を国内,海外に広く公表するための学会出張旅費も必要となる.

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2013 2012

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件)

  • [雑誌論文] Control of a model of DNA division via parametric resonance2013

    • 著者名/発表者名
      Wang Sang Koon, Houman Owhadi, Molei Tao, and Tomohiro Yanao
    • 雑誌名

      Chaos

      巻: 23 ページ: 013117

    • DOI

      10.1063/1.4790835

    • 査読あり
  • [学会発表] 質量分布の対称性に起因する分子内エネルギー移動と集団運動2013

    • 著者名/発表者名
      柳尾朋洋,岡右里恵,W. S. Koon
    • 学会等名
      日本物理学会第68回年次大会
    • 発表場所
      広島
    • 年月日
      20130326-20130329
  • [学会発表] 細胞内のシグナル伝達および輸送におけるノイズの役割の探求2012

    • 著者名/発表者名
      大島健太,日野泰子,柳尾朋洋
    • 学会等名
      「細胞を創る」研究会5.0
    • 発表場所
      横浜
    • 年月日
      20121121-20121122
  • [学会発表] Applications of LCS to the study of transport trajectories in space mission2012

    • 著者名/発表者名
      K. Oshima, S. Wada, and T. Yanao
    • 学会等名
      9th International conference on flow dynamics
    • 発表場所
      仙台
    • 年月日
      20120919-20120921
  • [学会発表] Intramolecular energy flow and the mechanisms for collective motions of complex molecular systems2012

    • 著者名/発表者名
      T. Yanao, Y. Oka, and W. S. Koon
    • 学会等名
      9th International conference on flow dynamics
    • 発表場所
      仙台
    • 年月日
      20120919-20120921
    • 招待講演
  • [学会発表] 対称性からみた原子クラスターのモード間エネルギー移動と反応機構2012

    • 著者名/発表者名
      岡右里恵,柳尾朋洋
    • 学会等名
      第6回分子科学討論会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      20120918-20120921
  • [学会発表] 原子分子集合系における振動エネルギー移動と反応速度2012

    • 著者名/発表者名
      柳尾朋洋
    • 学会等名
      日本材料学会 分子動力学部門委員会
    • 発表場所
      岡山
    • 年月日
      20120525-20120525
    • 招待講演

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公開日: 2014-07-24  

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