本研究の目的は、原子分子集合体や生体分子モーターなどの高度な秩序構造を有する階層的分子システムの集団運動と機能発現のメカニズムを、非線形力学、非平衡統計力学、微分幾何学の手法を駆使して明らかにすることである。平成26年度は、本研究課題の最終年度であるため、これまでに得られた知見や成果の適用範囲を広げ、新たな応用先を探求することに力を入れた。さらに、分子系と天体系の力学的類似性に注目することで、太陽-惑星系のダイナミクスに関する研究を進めた。その成果は次の通りにまとめられる。 まず、生体高分子が普遍的に有するらせん形状の物理的・生物学的意義を解明する研究を進めた。特に、昨年度までに数値的に作成したDNAの2重らせん構造のモデルを発展させ、より現実の構造に近いモデルを構築した。さらにこのモデルを用いた数値および理論解析により、DNAが熱ゆらぎの環境においても自発的に決まった方向(カイラリティ)に巻き付き、よじれ合う傾向を有する可能性があることを示した。この結果は、DNAの超階層的な折り畳みの機構や生体高分子同士の相互認識機構について、新たな視点を提供する可能性のあるものと考えられる。 また、原子分子集合体の集団運動の機構解明と制御に向けた研究を推進した。特に、これまでに発展させてきた「超球モード解析」と呼ぶ手法を用いて、原子クラスターがオブレートとプロレートという異なる質量分布を有する構造間を遷移する集団運動の仕組みを、系の超球半径と慣性主軸の運動から説明する理論を提案した。本結果を、より複雑な分子集合体に応用し、その構造制御の手法を探ることは今後の重要な課題と言える。 天体力学への応用として、太陽と惑星を含む制限3体問題および制限4体問題を理論的および数値的に解析し、トロヤ群小惑星がラグランジュ点L4とL5の間を遷移する一般的なメカニズムを明らかにした。
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