研究課題/領域番号 |
23740301
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研究機関 | 神奈川工科大学 |
研究代表者 |
西野 晃徳 神奈川工科大学, 基礎・教養教育センター, 准教授 (00466848)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 量子ドット / 量子輸送 / 量子干渉 / 開放量子系 / 散乱状態 / 厳密解 / 多体束縛状態 / 非平衡定常状態 |
研究概要 |
2つの量子ドットが左右の導線に対して並列に結合した並列二重量子ドット系に対して、多電子散乱状態の厳密解を得ました。この並列二重量子ドット系は、半導体ヘテロ接合上に作製されたアハロノフ-ボームリングの各腕に量子ドットを埋め込むことにより、実験的にも実現されています。また、伝導度における近藤効果の測定により、電子間相互作用が量子輸送に影響を及ぼすことが知られています。本研究では、各量子ドットには(スピンに関して縮退した)エネルギー準位が1つだけ存在すると仮定し、これらをゲート電圧により独立に調整できるとしました。アハロノフ-ボーム磁束を0とする代わりに、ゲート電圧差を有限にすることで、左右の導線をつなぐ2本の経路は非自明な量子干渉をもたらします。また、量子ドット上の局在電子に対して、ドット上のクーロン相互作用とドット間のクーロン相互作用の両方を考慮しました。本年度は、自由電子平面波を入射状態とする2電子散乱状態の厳密解を構成することにより、非自明な量子干渉とクーロン相互作用が量子輸送にどのような影響を与えるかを議論しました。結果として、ゲート電圧差が有限の場合には、クーロン相互作用により、自由電子平面波が部分的に束縛状態として散乱されることが分かりました。この束縛状態は2電子間距離に関して指数関数的に減衰する2体束縛状態で、その束縛の強さがゲート電圧差によってコントロールされることが分かりました。これは1ドット系に現れた2体束縛状態には見られなかった新たな性質で、非自明な量子干渉と相互作用の協力現象と考えられます。この散乱状態の厳密解は3電子以上にも拡張され、有限バイアス電圧下での物理量の計算に応用されます。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ概ね順調に進行しています。スピン自由度を持つ量子ドット系の有限バイアス電圧下での性質を議論するのが本年度の計画でした。多電子散乱状態の厳密解の構成が1ドットの場合を飛び越えて、二重量子ドットの場合にも成功したのは当初想定していた以上の成果です。これにより、1ドットの場合には見られなかった著しい性質を発見することができました。有限バイアス電圧下での性質としては、2つのドットを同時に電子が占有する確率を意味する同時占有率の計算に成功し、国際会議、国内学会で口頭発表することができました。現在、論文を執筆中です。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた並列二重量子ドット系の厳密解を拡張されたランダウアー公式に適用し、有限バイアス電圧下での物理量の計算から輸送特性を解析します。絶対零度での解析を拡張して、有限温度の場合も議論します。また、並列以外の二重量子ドット系を考え、2つの量子ドットの配置の仕方が多電子散乱状態、多体束縛状態、さらに量子輸送にどのような影響を与えるかを調べます。
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次年度の研究費の使用計画 |
数値計算のためのデスクトップパソコン(MacPro)、数値計算ソフト、結果を視覚化するための画像ソフト(Illustrator)、成果発表のためのプレゼンテーションソフト(Office)、物性物理関連図書を購入予定です。また9月にフランスのアンジェで開催される国際学会「Recent Advances in Quantum Integrable Systems」、9月に横浜国立大学で開催される日本物理学会秋季大会、3月に広島大学で開催される日本物理学会第68回年次大会での成果発表のための旅費を計上します。
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