研究課題/領域番号 |
23740301
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
西野 晃徳 神奈川大学, 工学部, 准教授 (00466848)
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キーワード | 量子ドット / 量子輸送 / 量子干渉 / 開放量子系 / 散乱状態 / 厳密解 / 多体束縛状態 / 共鳴状態 |
研究概要 |
一般の開放型二重量子ドット系に対して、多電子散乱状態の厳密解を得ました。この系は前年度に扱った並列二重量子ドットを特殊な場合として含み、直列二重量子ドット、T型二重量子ドット、さらにアハロノフ-ボーム磁束が存在する場合を統一的に扱うことができます。本研究では量子ドット上には1準位のみ存在するとし、量子ドットに局在する電子に対してドット間クーロン相互作用を想定します。自由電子平面波として入射された電子は、相互作用の効果により、多体束縛状態として散乱されます。ここで、2体束縛状態には量子干渉効果の影響が現れることを見出しました。例えば、並列、T型の場合のように左右の導線をつなぐ二径路が存在する場合には二種類の束縛長が現れ、直列の場合には一種類の束縛長のみが現れます。 構成された散乱状態の厳密解をランダウアー公式の拡張に適用し、二重量子ドットを2電子が同時に占有する確率(同時占有率)をバイアス電圧の関数として計算しました。並列二重量子ドットの場合、2つの量子ドットのゲート電圧差が量子ドットの準位幅に比べて小さい場合には同時占有率は単調増加しますが、ゲート電圧差が準位幅に比べて大きい場合には非単調な増加が見られました。この非単調性は、バイアス電圧による量子コヒーレンスの破壊として解釈されます。 二重量子ドット系における多体束縛状態の出現を、共鳴状態を用いて説明しました。共鳴状態は散乱の共鳴極を固有エネルギーとする固有状態で、ヒルベルト空間には属しませんが、メゾスコピック系の共鳴伝導や崩壊原子核の研究において重要な役割を果たすことが分かっています。本研究により、二体束縛状態は一体共鳴状態の対として理解できることが分かりました。同様に、三体束縛状態は二体共鳴状態により理解されます。また、この二体共鳴状態を定めるSiegert条件を見出しました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ、概ね順調に進行しています。前年度の並列二重量子ドットにおいて得られた結果を一般の二重量子ドットに対して拡張できたことは、大きな成果でした。これは、「2リードの系を一旦1リードの系に変換して扱う」という従来の手法を介さず、直接2リードの系が扱う手法を開発したことにより可能になりました。また、共鳴状態という新たな視点を手に入れることにより、本研究結果の重要性をあらためて認識することできました。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に開発された直接2リードの系を扱う方法を用いて、相互作用が左右非対称に入る開放型量子ドット等の輸送特性を調べます。これらはこれまで数値計算のみで扱われてきたものです。また、これまでは散乱状態の厳密解が構成できる場合のみを扱ってきましたが、厳密解が構成できない場合についても解析を進め、本研究手法の一般性について議論します。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は当初予定を変更して成果発表のためのノートパソコンを先に購入したため、次年度は数値計算のためのデスクトップパソコン(MacPro)と数値計算ソフト(IntelComoser)を購入します。また物理学関連書籍を購入します。7月に韓国のソウルで開催される国際会議「STATPHYS25」、7月に京都大学で開催される国際会議「Mathematical Statistical Physics」、9月に徳島大学で行われる2013年秋季大会、3月に東海大学で行われる第69回年次大会での成果発表のための旅費を計上します。
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