研究課題/領域番号 |
23740308
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
東條 賢 学習院大学, 理学部, 助教 (30433709)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 原子 / 低温物性 / 物性実験 |
研究概要 |
2成分ボーズ凝縮生成の原子数安定化を行った。2成分ボーズ凝縮の生成には、まず1成分ボーズ凝縮を磁気トラップで生成した後に光トラップへ移行させ、その後ラジオ波とマイクロ波を用いて半数の内部状態を操作することで2成分にする。磁気トラップから光トラップへの導入時に、双方のトラップの空間配置のずれによって原子数が不安定になっていた。本年度はその原因を特定するために、光トラップ強度測定、磁場測定、温湿度測定を行い、実験室温度と磁場の間に相関があることを見出した。環境温度を安定化させることで磁場安定度が向上し、その結果磁気トラップから光トラップへの移行時の原子数安定度がこれまでの20%程度から10%以下まで向上した。光トラップへの移行安定度向上に伴い、2成分間の原子数比の安定化も実現した。原子数安定化によって安定になった2成分凝縮体を用いて、分離時のダイナミクスを精細測定が可能となったため、引き続き磁場公害による運動制御を用いて分離実験を行った。さらに新たにトラップ後位置と運動量の情報からトラップ中位置への再構成方法を見出し、これまでわからなかったトラップ中2成分ボーズ凝縮体の精細な運動測定を行うことができるようになった。さらに、運動制御用の勾配磁場依存性を調べ、勾配磁場の増加によって2成分間の相対速度が増加することを確認した。この2成分間の相対速度は界面不安定性と大きな関係があることは理論的に示唆されている。これまで安定的にトラップ中を運動していた2成分ボーズ凝縮体が、ある相対速度以上になると重心運動の変化とともに凝縮体内に縞模様状の孤立波(ソリトン)の生成に成功した。さらに相対速度を上げると部分的にソリトンが結合し、量子渦に似た密度分布の測定に成功し、界面不安定性のひとつであるケルビンヘルムホルツ不安定性を示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2成分ボーズ凝縮のダイナミクスは、原子数密度やトラップ中の初期運動に大きく影響する。つまり2成分の原子数や光トラップ導入時の重心ずれ等の実験状況がその後の測定結果を変えてしまう可能性がある。このため、まず2成分原子数の安定化(10%以内)および初期運動を伴わないトラップ中心への導入が必須であるため、今年度はまずこれらの実現に注力した。環境温度の安定化や光トラップの微調整を行うことでこれらの不安定原因を排除することができ、今後の2成分凝縮体実験の精度向上が期待できる。本年度は計画当初、2成分分離のために斥力ポテンシャル導入を予定していたが、上記の原子数およびトラップ安定化によってこれまでの分離実験をより精細にできると判断し、引き続き磁場勾配による分離実験を行った。磁場勾配は電流を変化することで容易に変化できるため、分離時の相対速度変化の微細制御も可能である。当初の計画は完全に分離した後に混合させることで界面不安定性を実現することを予定していたが、分離時にも不安定性が生じ、界面不安定性を生じさせる可能性も出てきた。そのため本年度は、原子数と運動を高精度に安定化した2成分ボーズ凝縮体の分離実験を行い、精細実験に相対速度増加による2成分ボーズ凝縮体の観測を行った。上記の予想通り、分離速度がある相対速度以上になったとき、2成分界面不安定性の1つであるケルビンヘルムホルツ不安定性と考えられる結果を得ることができた。また、小さな相対速度時では密度分布に変化が見られない領域を見出した。これらの分離ダイナミクスの詳細を評価することで、断熱的な2成分分離ができることもわかり、再混合実験のための重要な実験条件を特定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2012年4月から旧所属の学習院大学から新所属の中央大学へ異動した。旧所属からは装置を持ち出すことができなかったため、新所属で新たにボーズ凝縮実験装置を組み上げなければならない。ボーズ凝縮装置は一般的な製作予算は若手Bの4倍以上、期間は3年程度必要とされるため、本期間での実現は難しいが、限られた予算で実現可能なレーザー冷却装置の製作と当初の研究計画に関連した基礎実験を行う。まず新しいレーザー冷却実験用の光源の開発と真空装置の設計および製作を行う。新装置では旧装置で問題のあった、温度と磁場の安定化、観測光学系の高分解能化を組み込んで開発する。昨年度の実験で環境温度と環境磁場安定度が実験の精度を大きく左右することがわかったため、フィードバック回路を利用した温度と磁場のアクティブ制御可能な装置を新装置に組み込む。環境磁場は近隣を走る電車の影響が無視できないため、これを打ち消すために高感度な原子の磁場応答を利用する。つまり原子を磁気プローブとした磁場フィードバックの実現を目指し、今までの装置では実現できていない1ミリガウス以下の環境実現を目指す。これによって将来的に微小磁場中で2成分ボース凝縮の界面不安定性の精密実験が可能となる。微小磁場では原子の内部状態の自由度が生かされるため、高磁場で生じにくい不安定性においてもスピン状態の不安定性へ発展する可能性がある。この基礎実験として微小磁場安定度の向上を目指す。また空間高分解能の測定については、旧装置では装置への組み込みが制限されているため改善が困難であった。新装置で初期の設計から組み込み可能となるため、高分解能化することで界面不安定性をトラップから開放せずに観測できる。この高分解能測定法の確立を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
新所属の中央大学では、実験室環境の整備はほぼ完了している。旧所属からの装置はほとんど引継ぎできないため、まず新たなレーザー冷却装置を作製する。レーザー光源として自作半導体レーザーシステムの製作と構築を行い、それに必要な光学部品、機構部品およびレーザー制御用の電子回路部品を購入する。また、レーザー光周波数安定化のための電気回路の設計および製作を実現するための回路部品および機構部品等を購入する。これらの基礎実験装置立ち上げ後は、熱的原子を用いた環境磁場測定し、磁場のアクティブ制御可能な装置の作製および評価を行う。フィードバックに必要な周波数発生器や安定化電源を用意し、真空装置内のコイル作製やセンサー回路などについては基本的に電気部品や真空部品などを用いて自作する。本体の真空装置については、フリーウェアの3次元CADを用いて設計を行う。その後、真空槽や真空ポンプおよびその補助部品を購入予定である。これらに加え、磁気光学トラップ用磁場発生コイルおよびその電流源を用意し、基礎実験である冷却原子を用いた環境磁場の測定を試みる。さらにこの冷却原子を用いた磁場のフィードバックへ応用することで微小磁場実現を目指す。これに伴い、低磁場用の磁気プローブおよびシーケンスを考慮したフィードバック回路(前述の回路は定常的回路)の作製および導入を行う。また空間高分解能の測定について、新装置における高解像度化のためのレンズ設計を行い、観測光学系の評価を行う。これにともなう高精細ガラス加工部品をはじめとする光学素子や光学機器を購入する。光学系防振用としての小型防振台や電動ステージなどの電気部品および機構部品も導入する。
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