研究課題/領域番号 |
23740309
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
新倉 弘倫 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (10500598)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 超短高強度レーザーパルス / キャリアエンベロープ位相安定化 |
研究概要 |
本研究は、キャリアエンベロープ位相の制御された、パルス幅が数フェムト秒の高強度(~10^14W/cm^2)の赤外レーザーパルスを金属先端に照射し、そこからの光電子放出過程を測定することで金属先端と電場との超高速な相互作用を解明することを目的としている。静電場の代わりに超短フェムト秒レーザーパルスを用いることにより、実質的な電場による電子放出の時間をアト秒の時間領域に到達させることが可能になる。この目標に対し、平成23年度は以下の研究を行った。(1) レーザー電場の強度2mJ/pulse、パルス繰り返し1kHz、中心周波数が790nmのレーザーパルスのキャリアエンベロープ位相を、シングルショットのf-to-2f光学干渉計を用いて測定した。キャリアエンベロープ位相はレーザーのオシレーター・ポンプレーザーの温度や電源安定性、また周囲の雑音や震動源に依存する。これらの外部撹乱要因を減少させた結果、0.15radianの安定性を得た。またレーザーパルス幅を圧縮し、自作の光学干渉計によりパルス幅が5.0fsに圧縮されていることを確認した。(2)放出された光電子を測定するため、シングルチャンネルの飛行時間差型質量分析器を作成した。まずレーザーのキャリアエンベロープ位相の違いによるイオン化過程の違いを測定するため、まず光イオン測定のための電圧設定を行い、予測されるイオン種が生成するかどうかを確かめた。その結果、高強度レーザー電場による生成と、飛行時間差による違いが測定されていることを確認した。(3)光電子発生過程は、レーザー電場の中心波長に大きく依存すると考えられる。波長が長くなれば、解離過程が抑制され、トンネルイオン化の極限に近づく。従って光パラメトリック増幅器(OPA)による波長変換を行った。「平成24年度文部科学大臣表彰 科学技術分野 研究部門」を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
キャリアエンベロープ位相が当初想定したよりも安定度が悪く、その原因究明に時間がかかったことによる。結果的に、研究室の電源電圧が部分的に100V未満になることがあり、そのためにポンプレーザーの安定性が損なわれていたことに起因する可能性を突き止め、安定化電源等を挿入することで解決を図った。
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今後の研究の推進方策 |
(1)飛行時間差型分析器による光電子スペクトルの測定飛行時間差型質量分析器を光電子スペクトル測定のための電圧設定に変え、高強度レーザーパルス放出によって生成した光電子のスペクトルを測定する。発生する数サイクルレーザーパルスは0.5mJ/pulse以上の強度であり、金属への照射には高強度になりすぎるので、パルス幅を変えることなく電場強度を低下させ、制御するための光学系をセットする。具体的には透過型のフィルター等ではなく、偏光方向を利用したミラー類の組み合わせを用いる。偏光が制御されたパルスを金属先端に照射し、そこから放出された光電子スペクトルを、偏光方向とレーザー強度およびキャリアエンベロープ位相の関数として測定し、単一のアト秒光電子パルスが出現する条件を見つける。単一の光電子が発生すると、光電子スペクトルは閾値イオン化過程によるとびとびのスペクトルから、連続したスペクトルが生成すると予想される。(2)画像観測装置による光電子空間分布の測定イメージ検出型マイクロチャンネルプレートによる、光電子運動量画像観測装置を既存の真空チャンバー内にセットする。このイメージ検出型測定器を用いることにより、シングルチャンネル型とは異なり、光電子が放出される角度とエネルギーを同時に測定することが可能である。(1)で得た単一アト秒光電子が放出するレーザー電場条件で、どのようなアト秒光電子パルスの空間分布が生じているかを測定する。(3)ポンププローブ法による光電子測定数サイクルレーザーパルスを二つに分け、高強度レーザー電場の電場放出に対する影響を測定する。また、既存の光パラメトリック増幅器を用いて、レーザーパルスの中心波長を800nmから2000nmまで変換させ、波長による違いを測定する。波長が長くなるほどトンネルイオン化過程の極限に近づくので、光電子放出過程が異なると予測される。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は無し
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