研究概要 |
本研究は, ヨウ化メタン気体分子のポジトロニウム(Ps)消滅断面積の異常のメカニズムの解明を目的として実施した。その解明には至らなかったが、解明に必要となる問題解決に取り組む段階で、当初想定していなかった研究成果が得られた。計画では、陽電子消滅寿命―運動量相関(AMOC)装置と呼ばれる測定装置を開発し、熱化したPsがヨウ化メタンと衝突して消滅した時に放出されるγ線のエネルギーを詳しく調べ、それがピックオフ消滅によるものか、スピン転換した後の自己消滅によるものかを調べる予定であった。ただし、Psが、その生成媒質として用いるシリカエアロゲルとの対消滅によって放出されるγ線が測定のバックグラウンドとなるため、それを差し引く方法の開発が必要であった。その方法の検討を進める段階で、これまで測定された全ての気体原子・分子において、粘性率から求めたその断面積に対し、Psのピックオフ消滅断面積がほぼ比例するということを発見した。これは、Psの1回衝突あたりの消滅確率が原子・分子の種類によらないということを示唆する。このことを基本に、熱化したPsのピックオフ消滅率から、Psがトラップされた空孔のサイズを評価するための理論を整備した。このモデルは、古典論を基き、Psのサイズ効果に対応するパラメータを導入して、1 nm 以下の空孔に適応可能な Tao-Eldrup モデル(量子力学的モデル)となめらかに接続するようにしたもので、差渡し0.1 nm程度から数100 nmのの空孔に適応可能である。非破壊の上、物理的描像や数式が非常に単純なので、多孔性材料や機能性分離膜の分野で広く利用されることが期待できる。また、例えばシリカエアロゲルなど、窒素吸着法や水銀圧入法などで正しく計測ができないために空孔サイズについてまだよくわかっていない物質への適用も考えられる。
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