本研究は、原子泉方式を適用しセシウム原子のラマン遷移を分光することで、現用の高安定実用原子時計(水素メーザー等)の周波数安定度を超える原子時計の実現を主目的としている。昨年度の予備実験結果を元に装置の組み立てを行った。本装置にはアルミニウム製のマイクロ波共振器を組み込み、より多様な実験を行えるよう工夫を凝らした。共鳴周波数は室温付近で時計遷移から±200kHz以内に収まった。真空度は高性能原子時計を運用するのに問題のない10(-9)torr台に到達することを確認した。また、相互作用領域では不要磁場を発生する要素がないことを確認した。さらに、本体の開発と平行して原子時計を多重化する技術についても進展があった。これは、デジタルシグナルプロセシング(DSP)と離散的フーリエ変換(DFT)を用いて、既存技術より容易に多数の原子時計間の位相差を精度良く観測するものである。その相対精度は1秒の観測時間で10(-14)台を達成し、既存技術と同等レベルにあることが確認できた。一台の実用原子時計で得られる性能が限界に差し掛かっており、本研究で得られた多重化の技術は今後の実用原子時計開発の方向性を決定する可能性を秘めている。
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