研究課題/領域番号 |
23740317
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
義永 那津人 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助教 (90548835)
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キーワード | 非線形非平衡物理 / アクティブマター / 生物物理 / 流体力学 |
研究概要 |
本研究は、(a)細胞の内部構造、(b)不均一な表面張力下での流れ場と液滴の運動と変形、を二つの軸にしてそれらの間を埋めていくことを目的としている。本年度は、(a)に関して、アクチンと呼ばれるフィラメント状の分子の凝集体によって作られるゲルについて解析を行った。通常のゲルとは異なり、分子モーターと呼ばれるATPの加水分解によって得られるエネルギーを消費して運動する分子が発生する力(ストレス)が存在し、また、フィラメント間の相互作用を担う架橋たんぱく質が動的に吸着・脱着を繰り返す。フィラメントの空間分布と溶媒の分布を取り入れた二流体モデルにフィラメントの弾性を導入し、さらに、ダイナミックな架橋による摩擦の効果と、分子モーターによるアクティブなストレスを入れて解析的にゲルの収縮の時間スケールを計算した。最近の実験で、様々な構造のアクチンゲルやバンドルを操作することが可能で、さらにこれらを切断することによる収縮のダイナミックスも観察されている。理論的に得られた時間スケールと報告されている実験結果と比較して、よい一致を得た。これはPhysical Biology誌に掲載済みである。 (b)に関しては、化学反応により、等方的な環境から対称性を破って一方向に運動する液滴のモデルを提案し、解析的に方程式を縮約して運動速度のみで閉じた標準形を得ることができた。これはPhysical Review E誌に掲載されている。このアイデアを拡張することによって、自発的な回転運動に対しても方程式の縮約を行い、これも、Physical Review E誌に掲載済みである。また、前年度に行った内部の化学反応のパターンによって運動する液滴の実験を発展させ、より複雑なspiral状のパターンで運動する液滴を実験的に観測することができた。この内容はChemistry Letters誌に掲載済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、論文も多数投稿することができ非常に進展した年であった。さらに、運動する液滴の問題について変形も入れた計算も行い、すでに学会で発表済みである。論文とし準備段階にあり、次年度の早い段階で投稿につなげたい。今年度の後半には海外での研究会での講演を2回、その際に訪問した研究室でも2回セミナーを行い、研究成果を公表できる機会にも恵まれた年であった。
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今後の研究の推進方策 |
基本的にはこれからも当初の研究計画通りに進めていく。次年度は、海外での滞在型の研究会にも招聘さており、研究成果を広めるとともに、他の研究グループとの交流から新しい研究へと発展できればと考えている。また、数値計算についても継続して研究を進めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画通り、次年度はこれまでの理論的研究を進めながら、研究の進展に合わせて成果発表もこれまで以上に行っていきたい。国内、海外の様々な分野の学会や研究会に参加して成果を公表するとともに、今後の研究の発展のための情報収集を行っていきたい。数値計算にも力を入れていくために、計算環境の整備も行っていく。
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