研究課題/領域番号 |
23740323
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
遠藤 仁 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究副主幹 (40447313)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 中性子散乱 / 中性子小角散乱 / 中性子スピンエコー法 / タンパク質 / ダイナミクス / Staphylococcal nuclease |
研究概要 |
本研究の目的は、中性子散乱法を主な手法として用いる事で、溶液中のタンパク質一分子の構造とダイナミクスを定量的に評価する手法を確立し、その機能発現とダイナミクスの相関を明らかにする事である。 初年度は、モデルタンパク質としてStaphylococcal nuclease(SNase)を生合成することで大量(~300mg以上)に精製し、動的光散乱測定を用いて水溶液中での拡散係数を評価し、高純度かつ会合が無い状態で溶液中に分散している事を確認した。また、X線小角散乱法を用い、SNaseの溶液中の構造と単結晶によって決定された構造との違いを評価する計算プログラムを作成する事で定量的に評価し、溶液中のSNaseが結晶状態より広がった形状を取っていることを確かめた。 現在のタンパク質研究は、結晶状態の構造を評価する事が主流であるが、溶液中、すなわち単一分子状態における形態と、結晶構造とが異なる可能性を考慮すべきとの意見は以前からあった。SNaseの場合、その様な指摘が極めて的を得ているという知見を得る事が出来た。以上の結果は、SNaseが本研究のモデルタンパク質として極めて優れていることを示し、今後行う予定の中性子散乱実験お呼びコンピューターシミュレーションを用いたダイナミクス解析を行う上で極めて有用な情報である。また、これらの研究成果は、日本物理学会年次大会などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は2年間の期間で行う。初年度である昨年度では、モデルタンパク質であるStaphylococcal nuclease(SNase)の合成と精製を行い、中性子散乱測定に必要な300mg以上の分量を得た。更にX線小角散乱測定と動的光散乱測定を用いてSNaseのキャラクタリゼーションを行い、試料が本研究を進める上で極めて優れている事を確認した。 中性子散乱実験は、震災の影響で施設(研究用原子炉JRR-3及びスパレーション中性子源J-PARC)の稼働が停止中またはスケジュールが大幅に遅れたため、初年度は実施出来なかったが、次年度は5月中に中性子小角散乱実験をJ-PARCで、中性子スピンエコー測定をフランスILLで行う予定であり、既にビームタイム配分を確約されている。従って、中性子散乱測定に依って必要な実験データは全て得られる予定である。 以上の理由で、研究の現在迄の達成度を「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は中性子散乱測定に注力し、そのデータ解析を、数値計算を用いて行う。 次年度、J-PARCで行う予定の中性子小角散乱実験では、飛行時間法を用いた回折装置で測定を行うことから、広い空間領域(実空間で1~100ナノメートル程度)を高分解能で測定する事が可能であり、αヘリックスやβシートのドメインから分子全体の形状までを定量的に評価する事ができる可能性がある。 更にフランスILLで行う中性子スピンエコー実験では、小角散乱で測定した空間領域における100ナノ秒程度に及ぶ時間領域の時間相関関数が測定でき、タンパク質の並進と回転拡散、更に分子内振動に関する知見が定量的に得られるものと期待している。 以上の中性子散乱によって得られるデータは、タンパク質一分子のナノメートル・ナノ秒の時空間スケールにおける構造とダイナミクスの詳細を反映したものであり、その定量的な解析は数値計算によって厳密に行う必要がある。本研究では、弾性ネットワークモデルと基準振動解析を組み合わせた手法を用い、計算機を用いた数値計算によって散乱データを詳細に解析し、タンパク質のダイナミクスの詳細を明らかにする手法を確立する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は試料調製用の試薬や機材、高速演算が可能な計算機を購入したが、次年度では中性子散乱実験に必要な試薬及び物品の購入が主になる。また、海外で中性子散乱実験を行う予定である事から、旅費が多めにかかる事が予想される。
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