研究課題
本研究は、タンパク質の機能発現に重要であるαヘリックス・βシートなどに代表される各ドメインの水溶液中での構造とダイナミクスを、中性子小角散乱法及び中性子スピンエコー法を用いて評価することで、タンパク質の機能発現とダイナミクスの相関を明らかとする事を目的として遂行された。モデルタンパク質として、黄色ブドウ球菌の核酸分解酵素で残基数149の小球状のタンパク質であるStaphylococcal nuclease(SNase)を用い、中性子小角散乱測定をJ-PARCのBL15「大観」で、中性子スピンエコー測定をフランスのラウエ・ランジュバン研究所(ILL)のIN15分光器を用いてそれぞれ行った。中性子小角散乱測定においては、水溶液濃度0.5 - 5wt%での測定を行い、溶液中の分子構造とX線結晶構造解析から得られた構造との比較を行う事ができた。その結果、絶対強度との比較から水和構造が必要であり、更に水溶液中での構造は、結晶構造と異なっている事を示唆する結果が得られた。中性子スピンエコー測定においては、最大時間250ナノ秒に及ぶダイナミクスを評価する事が出来た。タンパク質のダイナミクスを、並進拡散・回転拡散・内部振動の3つのモードに分けて評価した結果、SNaseの内部振動が他のタンパク質よりも大きい事が分かった。これ迄の研究において、SNaseが核酸を切る際にドメインの大きな揺らぎ重要であるということが示唆されていたが、この実験において、直接SNaseの動きを捉える事に成功した。以上の結果は、日本物理学会の年次大会等で発表を行った。現在は、基準振動解析等の手法を用いて中性子散乱データのより定量的な解析を進めており、今後は他のタンパク質を用いても同様に構造とダイナミクス評価を容易にできる環境を整備していく。
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