(1)コレステリックブルー相と呼ばれる液晶の複雑な3次元秩序構造の諸性質について理論的考察を行なった.最終年度は高分子を導入することによるブルー相の安定化について定量的な考察を与えるとともに,ブルー相からなる液晶セルの電場応答ダイナミクスについて数値計算を行ない,強い電場下における位相欠陥の複雑なダイナミクスなどを明らかにした.また年度の後半では,薄いセルにおける特異な秩序構造が示す光学的性質を理解するための数値計算を試みた.期間全体ではその他,ブルー相からなる液晶セルの表面間には表面間距離に周期的に依存する力が働くこと,ブルー相液晶セルにおけるコロイド粒子の配置と粒子サイズの依存性,およびブルー相の安定な温度範囲と液晶の弾性定数との関係を明らかにした.コレステリックブルー相は近年高速ディスプレイへの応用が積極的に検討されており,電場下での配向のダイナミクス,およびブルー相の安定性を決める要因の理解は,ともに応用展開にあたって重要な役割を果たすことから,コレステリックブルー相の基礎物性の学術的理解を超えた貢献が出来たと考えている. (2)ネマチック液晶を三角関数のような断面を持つ溝に入れると,キラルな対称性が局所的に破れた,ねじれ配向とジグザグ状の配向欠陥を伴う周期的な秩序構造を取ることが実験的に明らかになった.この実験事実を踏まえ,配向構造についての簡単なモデルを考え,直線状の欠陥が不安定になりジグザグになることに対する理論的説明を与えた.溝中で生じるジグザグ状の配向欠陥構造は新規な液晶の秩序構造であるのみならず,温度変化などにより様々な構造変化をしうることが追加で明らかになっており,今後の展開の端緒を理論の側から与えることができた.
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