タンパク質などの生体分子には自由エネルギー曲面に多くの極小値があるため、通常の分子動力学シミュレーションを行ったのではこれらの極小値にトラップされてしまい、正しく構造を探索することができない。この問題を解決するためにマルチカノニカル法やレプリカ交換法などの拡張アンサンブル法と総称される手法が提案されてきた。本研究では新しい拡張アンサンブル法を開発し、その拡張アンサンブル法を用いたタンパク質の構造変化の研究、さらにタンパク質が間違って折りたたみ凝集することによってできるアミロイド線維への応用を行った。 具体的にはレプリカ置換分子動力学法を開発した。従来のレプリカ交換法では複数のレプリカに異なる温度を割り当て、2つのレプリカ間で温度を入れ替える。一方、レプリカ置換法では3つ以上のレプリカ間でも温度の入れ換えを行う。また温度を置換する際にメトロポリス法ではなく諏訪・藤堂法を用いることにより状態遷移をより効率的に行うことができる。この手法を水中のアミロイド線維を形成するペプチドに応用し、その形成初期過程をシミュレーションで明らかにした。
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