研究課題/領域番号 |
23740330
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三浦 均 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50507910)
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キーワード | フェーズフィールド法 / Mg-Feオリビン / 偏析 / 初期トランジェント / 累帯構造 / 冷却速度 / 成長速度依存性 / 界面不安定 |
研究概要 |
昨年度に開発したMg-Feオリビン系のフェーズフィールド計算プログラムを用いて,コンドリュールメルト凝固の数値計算を実施した。昨年度から取り組んでいる一方向凝固の計算を継続して行ない,より広い凝固条件(バルクメルト組成,冷却速度)に対して,コンドリュールに見られるオリビンバー状の凝固組織を再現し,バー状組織の間隔を求めた。数値計算速度の都合上,計算が実施できたのは比較的急冷条件の場合のみであった。本結果を,合金凝固の分野で知られている経験的な関係式を用いて徐冷条件へと外挿することにより,オリビンバー組織形成の冷却速度条件を10 K/s程度以上であると推測した。これは,従来の電気炉ベースの再現実験から得られている推定値より2桁程度大きな値である。この結果は,コンドリュールの加熱が,従来の考えより遥かに短い時間で完結した可能性を示唆している。この成果は,国際学術誌Icarusに投稿中である。 なお,昨年度開発したオリビン成長速度異方性モデルについては,国際学術誌Journal of Crystal Growthに掲載された。 前年度までの課題として,計算コストの問題により,計算領域をコンドリュールメルト全体ではなく局所部分に限定したという点が挙げられていた。この課題に対して,GPGPU(Graphics Processing Unitsによる汎目的計算)を採用することで解決を試みた。現在の進捗状況はテストプログラムの検証中という段階ではあるが,従来のコードの10倍近いパフォーマンスが得られている。これにより,メルト全体の計算が可能になり,オリビンリムの形成からオリビンバーの形成までを統一的に計算できるようになるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【達成事項】オリビンバーの幅と冷却速度の関係を数値計算結果に基づいて考察し,それを用いてコンドリュール形成時の冷却速度を推測した本成果は,多成分コンドリュールメルト凝固の分野における初めての理論的成果である。これまで実験主体であったこの分野に対し,新たな視点から従来の実験結果を検証することが可能となった意義は大きい。また,多大な計算コストを要するコンドリュールメルト全体計算についても,GPGPU技術の採用により,実施の目処がついた。オリビンリム形成からオリビンバー形成の一連の過程を統一的に調べることが可能となるだろう。 【未達成事項】凝固の熱的過程(結晶化潜熱の解放,熱伝導)は,現時点では計算コードに組み込んでいないが,GPGPUの採用によりメルト全体計算の目処がついたことにより,解決されると期待できる。また,ガスジェット浮遊炉を用いた多成分メルトの結晶化実験は実現していない。本実験は,数値計算との比較を行なう上で重要なテーマであるが,研究代表者の東北大学における任期満了に伴う異動の準備,及び,実験装置保有者である塚本勝男教授の定年退職が重なり,実施には至らなかった。Websiteによる研究成果発表はまだ実現しておらず,現在準備中である。 【まとめ】以上を踏まえると,理論的課題については順調にプログラム開発が進行しており,また,成果が学術誌にも掲載されたことを鑑みると,ほぼ予定通りの達成度であると言える。実験的課題については,数値計算との比較を行なう上で重要なテーマであるため,来年度に取り組む予定である。
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今後の研究の推進方策 |
GPGPU計算用のプログラムの検証を終え,多成分コンドリュールメルト凝固の計算を行なう。メルト一部分のみの局所計算ではなく,メルト全体の計算を実施する。コンドリュール加熱時のメルト表面における選択的蒸発による組成変化の効果をモデル化し,多成分系における棒状カンラン石凝固組織形成過程の研究を行なう。また,その成果をまとめ,学会・学術誌において発表する。 多成分メルトの結晶化実験については,実験装置を保有する塚本勝男教授の定年退職,及び,研究代表者である三浦の異動(東北大学→名古屋市立大学)により,規模を縮小せざるを得ない状況である。だが,装置自体は研究協力者である中村智樹教授に引き継がれている。中村教授の協力を仰ぎ,実験条件を絞った上で実験の実施を目指す。 さらに,websiteを通じた研究成果発表を行なう。研究代表者は,名古屋市立大学において独立した研究室の運営者となる。専門外の閲覧者にも分かりやすく図解し,本研究室websiteへの掲載を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし。
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