研究課題
日本は2007年から約2年間、周回衛星「かぐや」で月探査を行った。月のリモセンデータとして従来の探査データとは桁違いの空間分解能と多様性を有した、まさに決定版とも言える月全球の各データセットが我々にもたらされている [ex. Kato et al., 2010]。かぐやに搭載された13の科学観測器の中で、最もオリジナリティの高いデータが、スペクトルプロファイラ(Spectral Profiler: SP)データであり、本研究課題の目的は、全SPデータに対して鉱物の吸収線特徴量を抽出するアルゴリズム及びそれを利用したプログラムを開発し、「利用しやすいデータ」を作成することである。また、全量処理した結果の可視化データとして、SPの可視-近赤外スペクトルから抽出された鉱物吸収線の各特徴量(吸収中心波長や吸収深度など)に位置情報を付加したスペクトル画像を作成し、ウェブ上で公開するまでを確実に実現することを目指している。 SPデータを「利用しやすいデータ」にするためには、SPデータの性質ごとにアルゴリズムが必要となる。スペクトルデータから鉱物情報を取り出すためには、スペクトルを分解(de-convolution)して吸収線の特徴を取り出す作業が欠かせない。その手続きには鉱物リモセン分野の専門知識が必要だったが、そのプロセスの半自動化に成功した。研究代表者は一部のSPデータの性質に有効な修正ガウシアン法(Modified Gaussian Method: MGM)[Sunshine et al., 1990]をカスタマイズしたツールを開発した。その解析ツールを用いたSPデータ解析結果は科学雑誌Geophysical Research Letters上に投稿論文として出版されている [Ogawa et al., 2011]。
2: おおむね順調に進展している
既に、研究代表者は。一部のSPデータの性質に有効なアルゴリズムを開発し、その解析アルゴリズムを用いたSPデータ解析結果を科学雑誌Geophysical Research Letters上に投稿論文として出版した [Ogawa et al., 2011]。またこの研究成果については、2010年8月に行われた国際学会(Meeting of Americas)においても招待講演として口頭発表を行っている。さらに、全SPデータを利用しやすい形のデータにするため、Ogawa et al., [2011]を踏まえた複数のアルゴリズムの開発も新たに進めている。 また、スペクトルの観測地点を知るためには、データ利用者は同時観測画像上で自力で確認・検索することが必要だったが、研究代表者はSPスペクトルから抽出された鉱物吸収線の各特徴量(吸収中心波長や吸収深度など)に位置情報を付加し、月面画像上に可視化するIDLツールの初期版も作成した。この成果については2011年10月に行われた国際学会(European Planetary Science Conference)で発表している。
SPデータ毎に適切なアルゴリズムを選択する知識ベースを作成し、全SPデータの処理を行う。また全SPデータから抽出された特徴量に観測位置情報(緯度、経度)を付加し、画像データのように表示するため、抽出されたスペクトル情報の加工と可視化を進める。表示の目的に合わせた、データの平均化(あるいは間引き)ができるよう、空間解像度を調整するプログラムを作成し、利用する。 最終的には月面鉱物マップの作成と公開を目指す。スペクトルの特徴量は、鉱物組成に関する様々な情報と対応する。例えば、吸収線の中心波長は鉱物の種類、吸収深度は含有鉱物の混合比、反射率絶対値は鉱物の風化度等を示す。SPスペクトルの吸収中心波長マップについて、値に色づけし、視覚的にわかり易い形の月面鉱物組成マップとしてgoogle moon上に表示し、ウェブ上で公開する。他の吸収線特徴量マップも鉱物の解釈を加え、ウェブGIS(Geographyical Information System)上に載せるコンテンツとして用意し、公開したい。
本研究課題の実施に欠かせないものとして、ソフトウェア、ハードウェアの両面の研究環境整備があるが、次年度は特にハード面を強化する。全SPデータを処理する本研究計画の性質上、専用のストレージが必要であり、アルゴリズム開発・データ解析用の計算機と共に、設備備品として予算を使用する予定である。 また、本研究の大きな目的であるSPデータの利用促進のため、成果発表には引き続き特に重点を置く予定である。国内学会、国際学会で発表するために、国内・外国旅費、並びに、学術雑誌での論文掲載のための英語校閲料、論文投稿料を計上する。本研究計画の遂行が、かぐやの科学成果量産の牽引力となることを目指す。
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