研究課題/領域番号 |
23740345
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
藤 亜希子 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 技術研究副主任 (70587344)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | コア-マントル境界 |
研究概要 |
2003年と2010年にパプアニューギニアで発生した二つの深発地震の直達S波の記録を比較し、太平洋LLSVP北端の詳細構造の制約を試みた。S波波形解析の結果、観測される直達S波の振幅が球対称モデル(PREM)から予測される振幅の半分以下に減少する領域があることが分かった(To, 2011年日本地球惑星科学連合大会)。2010年の地震では震源からの方位と距離がそれぞれ55°と88°~102°(カルフォルニア州南部からニューメキシコ州に至る領域)に設置された観測点でS波振幅異常が見られる。2010年地震のごく近傍(約400km南西)で発生した2003年の地震では、S波異常領域は北側にズレており、ワイオミング州やアイダホ州の観測点で振幅が小さくなる。二つの震源が非常に近いにも関わらずS波振幅異常の観測される領域は異なることは、この振幅異常が観測点直下の構造を反映するものではないことを示唆している。更に、S波振幅異常はDepth phase(sS波)でも観測され、成因となる構造は震源のごく近傍にも存在しないことを示唆する。マントル最下部のLLSVPによりS波のshadow zoneが形成されることが、S波振幅異常の成因と考えられる。既存トモグラフィーモデルのLLSVPによるS波振幅への影響を調べる為に、モデルに対する理論波形を作成し、直達S波の振幅を観測値と比較した。モデルから得られる直達S波の振幅は、PREMから予測される振幅と比較して10%程度しか変化せず、50%以上変化する観測データを説明出来ないことが分かった。観測値を説明する為には、LLSVP内の速度低下量を増加させる必要があることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した23年度の計画は、LLSVPをサンプルするデータの精査と、波形データ順解析を効率化させる為のツールの開発であった。今年度は、研究実績で記した通りデータの精査を行うと共に、下記の解析ツールの開発と整備を行った。1)強い不均質に対して短周期成分を含む理論波形の作成は、膨大な計算資源を要する。マントル最下部の強い不均質構造によって生じる波線の歪みと走時の変化を、時間をかけずに定量的に推定するために、三次元波線追跡コードを開発した。理論波形計算の前段階で、波線追跡によりデータを説明し得る構造モデルを絞り込むことにより、順解析のスピードアップを可能とした。2) Coupled-mode スペクトル要素法(CSEM)を用いて、マントル最下部に局在する超低速度構造(dVs/Vsが-25%程度、水平方向の幅が約700km、高さが約30km)に対する理論波形を作成する為に用いるメッシュ構造の調整を行った。このような構造に対して6秒までの計算を行う為に、マントル最下部の格子間隔を8km程度に細かくする必要があることが分かった。当初予定していた通り解析ツールを整備出来ており、研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1)23年度に開発した三次元追跡コードとCSEMによって得られるS波理論走時を比較する。直達S波の異常振幅を説明する構造モデルを得る為に、三次元波線追跡コードを利用することの妥当性を見当する。2)太平洋広域低速度領域に感度をもつデータを更に収集する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1) CSEM開発者のCapdeville氏(ナント大学)との研究打ち合わせの為の外国旅費。2) Matalbを利用して三次元波線追跡コードを開発した。構造モデルのスムージングなどを行う為のMatlabのtoolbox の購入費。3)データ蓄積用ディスクの購入費。
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