研究課題/領域番号 |
23740348
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
杉本 周作 東北大学, 国際高等研究教育機構, 助教 (50547320)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 黒潮再循環 / 海面高度計データ / アリューシャン低気圧 / 黒潮流路 / 黒潮続流流路 / 中規模渦 |
研究概要 |
本年度は,近年整備されてきた人工衛星観測資料(海面高度計データ)を活用することで,黒潮再循環強度の時間変動特性解明を目指した.海面高度の時間・空間変動特性を調べた結果,再循環はその分布特性で2種類に大別されることがわかった.すなわち,黒潮南方で形成される再循環と,黒潮続流南方に位置する再循環である.海面高度の領域積分値で,その再循環強度を定義した.その結果,いずれの再循環からも,約10年の長周期変動成分が同定された.そこで,両者の変動を比較した結果,位相の一致は見られず,無相関の関係にあった.続いて,この変動要因を調べた結果,アリューシャン低気圧南北位置変動に伴い励起された海洋ロスビー波が主因であることがわかった.この海洋ロスビー波の伝播速度には,緯度依存性が知られている.すなわち,ロスビー波到達時間の差が,2つの再循環強度の位相差を生み出したと結論づけた.本研究で得られた成果は,10月に米国で開催された国際会議で発表され,現在,国際学術雑誌への投稿準備中である.上記研究を遂行する中で,再循環北部に位置する黒潮および黒潮続流の流路の理解が必要であると考えた.そこで,人工衛星による海面高度計データを用いた結果,両流路形態に明確な関係性があることがわかった.すなわち,黒潮が非大蛇行離岸流路をとる時期に,その下流の黒潮続流が不安定流路形態をとなっていた.上記関係は,流路方程式等の理論の観点からも,妥当な結論であることがわかった.また,黒潮続流の不安定流路期には,多くの中規模渦(直径200km程度)が生成されていた.この渦の影響を調べた結果,周囲の海面水温の決定要因であることがわかった.これらの一連の研究成果は,2編の論文としてまとめ,既に国際学術雑誌に掲載されている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の主目的は,衛星海面高度計データを用いて黒潮再循環強度の時間変動特性を調べ,その要因として,アリューシャン低気圧起源の海洋ロスビー波の役割を調べることであった.この目的は達成され,現在,国際学術雑誌への投稿を準備している段階である.また,本研究課題を遂行する中で,黒潮/黒潮続流の「流路形態」の理解の重要性を認識した.そこで,衛星海面高度計データを活用することで,黒潮と黒潮続流流路間の明瞭な関係を提示するにいたった.すなわち,黒潮が非大蛇行離岸流路を取る時期に,黒潮続流は不安定な流路形態をとることがわかった.そして,黒潮続流不安定流路期には,黒潮続流から切離した中規模渦(直径200km程度)が存在・分布することがわかった.そこで,黒潮続流の北方域である黒潮/親潮混乱水域での中規模渦の役割を調べた結果,該当海域の海面水温変動の主因であり,さらには,直上の大気場への熱供給量を決定することがわかった.これら一連の研究は,本研究課題の発展型研究であり,2編の論文として国際学術雑誌に掲載された.以上の観点から,本年度は,「当初の計画以上」に進展し,十分な成果が得られたと判断するに至る.
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度は,衛星観測資料を用いることで,「海面」での再循環変動特性の理解を得た.そこで,平成24年度は,「海洋内部構造」に焦点を当てる.(1)解析資料の収集:研究に際しては,船舶,および全球展開されているArgoフロートデータを主に活用する予定である.これらは入手に問題はない.(2)海洋構造の理解:本研究課題が対象としている再循環域では,北太平洋亜熱帯モード水形成・分布することが知られている.そこで,亜熱帯モード水形成域である東経142度から150度,北緯30度から35度までを解析対象とする.また,この海域には,黒潮続流蛇行や,北部の亜寒帯系水の流入等が予想され,これらの影響は本研究にとってノイズに他ならない.そこで,本研究独自に閾値をもうけることで,上記ノイズの影響低減を図る予定である.(3)モード水時間変動特性の理解:モード水水温,および層厚に着目し,ウェーブレット解析を適用することで,その周波数特性の理解を得る.ここで得られた特性が,平成23年度に算出した再循環強度指標と一致するか否かを検証する.(4)黒潮続流流路との関係解明:平成23年度の成果により,黒潮続流が不安定流路を取る時期ほど,黒潮続流から切離する渦が多いことを報告した.それゆえに,現時点では,不安定期ほど,渦に伴う水平拡散に伴いモード水特性が消失すると予想している.そこで,上記仮説の検証を行う.具体的には,平成23年度に作成した安定/不安定流路指標を用い,モード水分布特性との位相関係を調べる.上記研究 を遂行することで,大局的な場の中に存在する亜熱帯モード水の分布が再循環強度決定に果たす役割の理解を得ることを目指す.
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度は,船舶・Argo・衛星観測資料等の膨大な資料を活用し,研究活動を展開する予定である.そのため,これらデータの保管,および解析用フォーマットへの変換等のために,大量の大容量外付ハードディスクが必要不可欠である.そこで,平成23年度からの繰り越し研究費(約42千円)を組み合わせ,新規購入する.また,データ処理を大量に行うので,円滑な解析処理を実現するために解析補助ソフトを購入する.国内・国外(米国AGU大会等)での研究成果発表のための旅費を経費計上する.さらに,国際学術雑誌への投稿に際し,英文校閲にかかる費用と投稿料を経費計上した.
|