研究課題/領域番号 |
23740349
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳瀬 亘 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (80376540)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 台風 / 温帯低気圧 / メソ低気圧 / 理想化実験 / 領域モデル |
研究概要 |
本課題の目的に掲げた理想化実験のテーマは2つあり、第1のテーマは「熱帯低気圧と温帯低気圧との間のグレーゾーンでの低気圧の性質」、第2のテーマは「多様なメソ低気圧(水平スケール数百km)を作る環境場の役割」である。平成23年度は第1のテーマに関する準備段階として、現実の大気データ(JRA25/JCDAS再解析)を用いて、低気圧の統計データを作成した。まず、低気圧の経路を検出するプログラムを修得するため、イギリスのReading大学に約1ヶ月間滞在し、開発者のK.I.Hodges博士に直接教わることができた。次に低気圧の種類を客観的に判別するため、低気圧の構造を解析するアルゴリズム(Hart,2003)を組み込んだ。これらの解析ツールのを利用して、過去30年間に発生した低気圧の位置・強度・種類などの統計データを作成することができた。 この低気圧の統計データセットを利用して、熱帯低気圧や温帯低気圧の発達しやすい場所の環境場(大きなスケールでの渦度、海面水温、気温の水平勾配など)を解析し、低気圧の発達に関わる可能性がある要因を見つけ出すことができた。特に、低気圧が発達しやすい熱帯や温帯の環境場を、低気圧が発達しにくい亜熱帯の環境場と比較することで、複数の環境場の要因が影響していることを定量的に確認した。この環境場の情報を用いて、平成24年度以降は低気圧の理想化実験を行うことができる。 また、気象庁で現業予報のために開発された領域非静力学モデル(JMANHM)を、本課題での単純化した実験に使用するための改良も完了した。以上の通り、本年度は研究実施計画に記した内容を予定通り実現することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の第1テーマである「熱帯低気圧と温帯低気圧との間のグレーゾーンでの低気圧の性質」における理想化実験の準備作業を、研究実施計画の通りに実現することができた。主な作業内容は3つあり、(1)大気データから低気圧の経路や種類を抽出する解析ツールの整備、(2)低気圧が発達しやすい環境場データの作成、(3)理想化実験用の領域モデルの改良を行った。 研究成果の発表に関しては、日本気象学会において平成23年11月の秋季大会で(1)の内容を報告し、平成24年5月の春季大会で(2),(3)の内容を報告する予定である。また、(1)に関しては、平成24年8月のAsia Oceania Geosciences Societyの国際会議で発表し、また、速報としてレター誌への投稿を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の第1テーマである「熱帯低気圧と温帯低気圧との間のグレーゾーンでの低気圧の性質」の準備作業が計画通り実現できたため、平成24年度は理想化実験を本格的に開始する。まずは熱帯や温帯の環境場を与え、典型的な熱帯低気圧や温帯低気圧の発達を再現する実験を行う。環境場の要因は複数あるため、どの要因が発達に本質的であるかは自明ではない。そこで、環境場の要因を個々に切り分ける感度実験を行い、重要な要因を特定していく。 これらの理想化実験により、「熱帯と温帯では低気圧が発達しやすいが、亜熱帯では発達しにくい理由はなぜか」という問題や、「環境場の要因の組合せによっては、急激に発達する低気圧が形成しうるか」という問題を明らかにすることができると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
本課題の第1テーマに関して、研究成果を発表するための費用として使用する。平成24年8月のAsia Oceania Geosciences Societyの国際会議での発表を申し込んでおり、また、速報としてレター誌への投稿を準備中である。 また、第2テーマ(主な実験は平成25年度以降に実施予定)である「多様なメソ低気圧を作る環境場の役割」に関して、最新研究の情報を収集するための出張費用として使用する。5月にノルウェーで開催されるポーラーロー(高緯度で発達するメソ低気圧)の国際会議に参加を申し込んでおり、また、イギリスのReading大学のHodges博士とトラッキング解析のメソ低気圧の応用に関して打ち合わせを行う予定である。
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