研究課題/領域番号 |
23740349
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳瀬 亘 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (80376540)
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キーワード | 台風 / 温帯低気圧 / メソ低気圧 / 理想化実験 / 領域モデル |
研究概要 |
本課題の目的に掲げた理想化実験のテーマは2つあり、第1のテーマは「熱帯低気圧と温帯低気圧との間でのグレーゾーンでの低気圧の性質」、第2のテーマは「多様なメソ低気圧(水平スケール数百km)を作る環境場の役割」である。 第1のテーマに関しては、前年度に現実の大気データから熱帯低気圧や温帯低気圧の環境場を解析することに成功したので、本年度はその環境場のデータを使用して気象庁非静力学モデルによる理想化実験を行った。海面水温の高い熱帯域の環境場では、台風のように眼やスパイラルバンドを伴う低気圧が、気温の南北勾配が大きい温帯の環境場では、温暖前線・寒冷前線を持つような低気圧が発達することを確認できた。さらに、低気圧が発達し難い亜熱帯の環境場は、熱帯の環境場に近いにも拘らず、水平風の鉛直シアが強いことが低気圧の発達の阻害要因になっていることも感度実験により明らかにした。全体として、熱帯・亜熱帯・温帯の低気圧の分布における、鉛直シア(水平温度勾配)の大きな役割が確認できた。一方で、亜熱帯域の下降流や低湿度も低気圧の抑制に影響している可能性があるため、これらの効果も理想化実験で切り分けて行く予定である。 第2のテーマに関しては、日本海上に発達するメソ低気圧であるポーラーロウの研究に取り組むため、平成24年5月にオスロで開催されたポーラーロウのワークショップに参加し、最新の研究動向を把握するとともに、イギリスやドイツの低気圧の研究者と協力して研究を進める準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の第1テーマである「熱帯低気圧と温帯低気圧との間のグレーゾーンでの低気圧の性質」における理想化実験を実施し、その結果を平成24年の日本気象学会の春季大会で発表した。特に鉛直シアが熱帯・亜熱帯・温帯の低気圧の分布に大きな影響を与えていることを確認できた。学会での他の研究者からのアドバイスを受け、様々な環境場要因に対する低気圧の発達メカニズムをより包括的に解析できるよう、さらなる実験を進めている。 現実大気データを用いた環境場に関する統計的な研究も進み、理想化実験の結果の妥当性を議論する上での重要な結果を得ることができた。この研究は、平成24年の日本気象学会の春季大会・秋季大会、ハワイ大学で開催された"Joint Symposium on Ocean, Coastal, and Atmospheric Science"の会議、シンガポールで開催されたAOGSの会議で発表を行なった。また、アメリカ気象学会のJournal of Climate誌に論文を投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の第1テーマである「熱帯低気圧と温帯低気圧との間のグレーゾーンでの低気圧の性質」における理想化実験を引き続き行う。本年度に調べた鉛直シアの影響に加え、鉛直流や湿度の影響も考慮した包括的な理想化実験の設定を考案していく。 本課題の第2テーマである「多様なメソ低気圧(水平スケール数百km)を作る環境場の役割」の理想化実験において、予備研究として掲げた現実事例の解析を行う。ポーラーロウ、梅雨前線低気圧、地中海低気圧など様々なメソ低気圧を膨大な大気データから検出できる手法の開発に取り組む。また、メソ低気圧の理想化実験に必要な数値実験の準備を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度・本年度の研究成果を、6月にギリシャで開催される"4th International Summit on Hurricanes and Climate Change"の会議で発表するための旅費として使用する。また、研究成果を国際誌へ投稿するための費用に使用する予定である。
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