研究課題/領域番号 |
23740351
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
増永 浩彦 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 准教授 (00444422)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 気象学 / 衛星リモートセンシング / 熱帯対流 / 降水システム |
研究概要 |
本研究では、複数の衛星センサを横断的に活用した新たな解析手法を開発し、積雲対流と大気熱力学場の関連を観測研究の立場から明らかにするとともに、準平衡仮説のような従来の問題意識を発展的に継承し雲・大気相互作用の再検討を試みることを目的としている。平成23年度では、予備研究で手応えを得た衛星データ解析手法を本格的に確立し、熱帯降雨観測衛星(TRMM)・Aqua衛星・QuikSCAT衛星・CloudSat衛星など、大気の気象状態や雲・降水を多角的に観測できる衛星センサを横断的に利用した研究を推進した。本年度の成果は以下のようにまとめることができる。1.雲対流の発達する直前の半日程度で、CAPE(大気安定度の指標の一つ)が急激に減少し、対流後およそ1-2日ほどで緩やかに回復する。このようなCAPEの変化は、大気境界層における対流に伴う気温・湿度の時間変化をもとに理解できることを示した。一方、このようなCAPEの顕著な変化は、準平衡仮説が要求するCAPEの不変性と整合しないことも明らかになり、準平衡仮説の修正を迫るものである。2.上記解析手法の応用として、鉛直平均相対湿度(CRH)および降水量の相関を定量化する解析を行った。CRHと降水量は強い非線形の関係を持つことが既存の観測研究から知られているが、その非線形性の強さについて著しい不一致があり、その原因は分かっていなかった。本研究では、その不一致は着目する時間スケールの違いに起因するものであることを明らかにした。日平均量をもとに統計を取ると比較的弱い相関が表れるのに対し、個々の降水システムの生成・発達過程を分解できる1時間単位の統計量で比較すると、CRHと降水量にはるかに強い非線形性をもたらすことを示した。3.次年度の研究発展の基礎として、本解析手法をもとに水収支・熱収支の定量的評価を行う方法論の開発に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
衛星データ解析手法は研究計画で想定した通りの成果を挙げており、研究は順調に進捗している。また、次年度(平成24年度)に向けた新しい解析の方法論の模索もほぼ期待通りに進んでおり、おおむね順調であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の実績を受けて準備を進めている水収支・熱収支解析を本格的に実施する。同様の研究は、現場観測データや数値モデル研究・再解析データに基づく研究では広く行われてきたが、衛星観測データのみに基づく解析は前例がない。期間や対象領域が限定される地上観測実験に比べ、地球全域の観測を長期間継続的に行うことができることが衛星観測の利点である。一方、大気力学場の解析に不可欠な大気中・上層の風向・風速を直接計測する手段がないことが、衛星データ解析の限界であった。今後の研究方策の主眼の一つは、この衛星観測固有の限界を乗り越えるため、水蒸気収支・熱収支方程式を用いて間接的に大気力学場の時間変化を導出する解析手法を開発し、観測データに適用することである。現在までに行った予備解析では、対流の発達に伴う自由対流圏の収束場や、大気境界層から自由対流圏へ輸送される水蒸気・エントロピーの鉛直輸送など、従来の衛星観測研究からは推定できなかった物理量の導出が充分に可能であるという感触を得た。とくに、湿潤対流の発達・消滅に至る一時間単位の時間変化を刻一刻と追跡する収支解析は新規性が高く、熱帯の対流と環境場の相互作用を理解する上で、質の高い知見を得られると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、以下の予定で使用する計画である。1.解析データを保存するためのハードディスクドライブ。(15万円程度)2.研究成果を公表する上で必要となる国内外の学会参加費および旅費。(50万円程度)3.成果を専門誌上で発表するための論文投稿費(45万円程度)
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