研究課題/領域番号 |
23740351
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
増永 浩彦 名古屋大学, 地球水循環研究センター, 准教授 (00444422)
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キーワード | 気象学 / 衛星リモートセンシング / 熱帯対流 / 降水システム |
研究概要 |
本研究では、複数の衛星センサを横断的に活用した新たな解析手法を開発し、積雲対流と大気熱力学場の関連を観測研究の立場から明らかにするとともに、準平衡仮説のような従来の問題意識を発展的に継承し雲・大気相互作用の再検討を試みることを目的としている。初年度に当たる平成23年度では、予備研究で手応えを得た衛星データ解析手法を本格的に確立し、TRMM・Aqua・QuikSCAT・CloudSat各衛星など大気の気象状態や雲・降水を多角的に観測できる衛星センサを横断的に利用し、数日の時間スケールにわたる統計的に連続な時系列を得る解析手法を提案した。本年度はその解析手法をさらに発展させ、熱収支・水蒸気収支解析をもとに対流発達に伴う大気状態の時間変化を定量的に評価する手法を開発した。平成24年度の成果は以下のようにまとめられる。 1.AIRSが観測した気温と湿度プロファイルは、それ自体は雲域を除外した推定値になっているため、半解析的に求めた雲域内の推定値と組み合わせて大規模平均場を導出する方法論を提案した。2.これらの推定値を、雲底で仕切られた大気二層それぞれで鉛直積分した水蒸気収支・熱収支方程式へ入力し、水蒸気量および乾燥静的エネルギーの自由対流圏収束場とそれらの雲底における鉛直フラックスを、衛星データのみから評価することに成功した。主な結論は次のとおりである。1)孤立した積雲の発達に先立つ自由対流圏湿潤化の主な供給源は雲底からの水蒸気鉛直フラックスであるが、高度に組織化された対流系に対しては水蒸気の水平収束がもっぱら湿潤化を担う。2)自由対流圏の非断熱加熱はほぼ瞬間的に相殺される。3)背景場においては、渦乱流効果の寄与は雲底における鉛直水蒸気フラックスの約半分に及ぶが、高度に組織化された対流系が発達する際には全雲底フラックスの変動を決める主要因はむしろ大規模平均上昇流である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度当初に見込んでいた今年度の研究目的は、衛星データを活用した熱収支・水蒸気収支解析手法の確立およびその手法を用いた熱帯大気場変動の解明であり、その目標はほぼ想定通り順調に達成したといえる。本研究で提案した収支解析の新規性は、衛星観測から本来推定することの難しい水蒸気収束場やエントロピー収束場を定量化する道を開いたこと、さらにマイクロ波散乱計の海上風データを用いることで、雲底下層と自由対流圏の力学を個別に解析することに成功したことである。本年度の研究において、解析手法を確立し初期解析結果をまとめると共に、成果をまとめた論文を専門誌に投稿し受理に至ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究期間の最終年度となる平成25年度は、前年度までに確立した解析手法をさらに深化させ、大規模上昇流の鉛直分布を導出する手法の開発を試みる。24年度成果では、水蒸気収束およびエントロピー収束の鉛直積算値を導出する方法論を開発した。水蒸気収束は大気下層の力学場を主に代表し、一方エントロピー分布は対流圏上層に感度を持つことを考慮すると、水蒸気収束・エントロピー収束を組み合わせることにより対流圏の上層・下層の力学場の全体像をある程度推定できると期待される。さらに、水平収束の鉛直分布から連続の式を介して上昇流の鉛直分布を得ることができる。対流雲の活動に伴う大規模上昇流の変動は、熱帯における大気循環の力学を理解する上で鍵となる重要な要素であり、大規模上昇流の導出および大気循環場の実態解明をもって本研究の到達点としたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、以下の予定で使用する計画である。 1.解析データを保存するためのハードディスクドライブ。(20万円程度)2.研究成果を公表する上で必要となる国内外の学会参加費および旅費。(70万円程度)3.成果を専門誌上で発表するための論文投稿費(60万円程度)
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