本研究では、複数の衛星センサを横断的に活用した新たな解析手法を開発し、積雲対流と大気熱力学場の関連を観測研究の立場から明らかにするとともに、準平衡仮説のような従来の問題意識を発展的に継承し雲・大気相互作用の再検討を試みることを目的としている。初年度に当たる平成23年度では、予備研究で手応えを得た衛星データ解析手法を本格的に確立し、TRMM・Aqua・QuikSCAT・CloudSat各衛星など大気の気象状態や雲・降水を多角的に観測できる衛星センサを横断的に利用し、数日の時間スケールにわたる統計的に連続な時系列を得る解析手法を提案した。つづく24年度は、その解析手法をさらに発展させ、熱収支・水蒸気収支解析をもとに対流発達に伴う大気状態の時間変化を定量的に評価する手法を開発した。最終年度である平成25年度は、収支解析で得られた自由対流圏収束場の推定値をもとに、大気鉛直流速度を求める手法の開発を行った。その成果は以下のようにまとめられる。 観測データから、自由対流圏中の鉛直積分値として水蒸気収束場と乾燥静的エネルギー(DSE)収束場が時間の関数として得られている。水蒸気は大気下層に集中的に分布し、一方DSEは大気上層に向けて単調増加することから、水蒸気収束とDSE収束を組み合わせることで、水平収束場(さらに鉛直流)の鉛直構造をおおよそ推定することができる。じっさい、鉛直流速度を第一、第二傾圧モードと浅い対流モードおよび時間に依存しない背景場の成分で展開し、これらのモード係数を観測データから決定することができることを示した。その結果、雲対流活動のピークに先立ち雄大積雲モード(正の第2傾圧モード)が成長して大気の不安定化を助け、対流ピークとと共に深い対流モード(第1傾圧モード)が卓越し、その後層状性降水モード(負の第2傾圧モード)が急速に立ち上がる時間推移の傾向を、明確に捉えることに成功した。
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