研究課題/領域番号 |
23740353
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
田口 正和 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (50397527)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 準二年周期振動 / 熱帯成層圏変動 / 対流圏―成層圏結合 |
研究概要 |
近年の地球の気候変動において、対流圏―成層圏結合の重要性が強く認識されている。本研究では、結合の端的な例として、熱帯成層圏の準二年周期振動(QBO)を取り上げている。Taguchi (2010)は、ラジオゾンデ(気球観測)データを用いてエルニーニョ・南方振動(ENSO)に伴うQBOの変調を世界で初めて示した。本研究では、再解析データと既存の大気大循環モデル(GCM)データを用いてQBOの変調(と力学)の再現性を検討することである。 本年度には、主として、ひとつの再解析データとひとつのGCMデータを取り上げ、より基本的なQBOの季節性について検討した。再解析データは、気象庁・電力中央研究所によって整備されたJRA/JCDAS再解析データ(以下では、JRAデータと称する)である。GCMは、気象研究所で開発された化学気候モデルである。QBOの季節性とは、ある高さで、東西風の逆転が決まった季節に起きる傾向にあることである。再解析データ・GCMデータのどちらも、QBOの季節性には、重力波の寄与が重要であることを示唆する。 ラジオゾンデデータと比較して、JRAデータはQBOを良く再現し、したがって季節性もよく再現する。その力学を変形オイラー平均方程式に基づいて診断したところ、季節性の鍵となる東西風加速はデータで陽に得られる項では説明できないことが分かった。これは、データで表現されない小規模な重力波の役割を示唆する。GCMデータは、QBOの特徴を大まかには再現するが、季節性を再現しない。同様に、東西風加速のバランスを診断したところ、重力波による加速が季節的に一様すぎることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の進展度は、およそ計画にしたがって作業・成果を収めることができた上に、これらを次年度に展開可能であることから、おおむね順調であったといえる。当該年度の計画では、代表的再解析データとGCMデータを取り上げ、QBOの基本的特徴を確認しつつ、より高次の変化(季節性やENSO変調)を検討する予定であった。実際の作業は、ENSO変調はさておいてより基本的な季節性に注目したものの、計画のようにおよそ推移した。代表的再解析データとしては、現在日本で唯一のJRAデータを選択し、その中でのQBOの再現性や季節性・その力学を検討した。GCMデータとしては、やはり日本のグループ(気象研究所)の提供しているGCMデータで同様の検討を行った。このGCMデータは、QBOの基本的特徴を再現していることは、あらかじめ分かっていた。上記の結果は、現在、投稿準備中の段階にある。 当該年度の作業・成果は、次年度にも自然と展開可能である。すなわち、対象とする再解析データ・GCMデータを広げて、データ収集・整理・解析、を行う。その際には、本年度、代表的再解析・GCMデータについて行った経験が生かされる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度においては、再解析データ・GCMデータの双方において、対象データ数を増やして、QBOの再現性やそれらの力学を調査する計画である。再解析データにおいては、平成23年度に収集・整備・解析したJRAデータに加え、次の4つを合わせて、計5つを対象とする:NCEP/NCAR、NCEP/DOE、D. MERRA、ERA40及びERAinterim。ある再解析データにおいて異なる分解能のものが利用できる時は、低分解能のものを優先して使用する。東西風QBOの再現性に関して、より新しい再解析データにおいて再現性がよい傾向があることは知られているので、ここでは再現性(大まかな変動、季節性、及びENSO変調)のデータ依存性をより詳細に検討する。さらに、QBOの波駆動について調査する。波駆動の寄与は、それが東西風変動とどの程度対応しているか、によって検討できる。時空間スペクトル解析により、異なる時空間規模・位相速度の波動の寄与を見積もることができる。もし残差が大きい場合には、再解析データで表現されない小規模波動の寄与が示唆される。GCMデータにおいては、平成23年度に解析した気象研究所GCMデータに加え、SPARC CCMVal及びCMIP5プロジェクトに参加している(した)GCMデータを収集・整備し、再解析データと同様の視点で調査する(重複するので、説明は省略する)。SPARC CCMValプロジェクトは、世界の成層圏GCMモデリンググループをまとめ、指定条件で行った実験データを比較する。CMIP5は、世界の全球気候モデル(大気―海洋結合モデル)を比較するプロジェクトで、地球温暖化予測に対して主要な入力情報として位置づけられる。これら2つのプロジェクトは、現在気候の再現実験を含む。そのような実験でQBOをモデル内部で自発的に再現しているGCMの公開データを解析対象とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度(平成24年度)の予算の主な使途は、次の3つである: 物品(PC、データ保存装置)、国内・外国旅費、論文出版費用。昨年度(平成23年度)において、当初研究計画に基づいて、PC・データ保存装置購入の検討を行った。しかし、研究対象をひとつの再解析データとひとつのGCMデータに集中したため、新規購入を必要とせず、次年度使用分として残金が生じた。本年度には、この残金分も合算した予算使用計画を立てている。残金分は特に物品購入に使用することを念頭に置く。複数の再解析データ・GCMデータを収集・整備・解析するため、PC・データ保存装置(RAID装置)の購入を検討する。データ保存装置は、確実に必要であり、早期に購入する。データの解析は、現有機器で行いつつ、必要に応じてより高速なものを新規購入する。場合によって、解析及び発表両方に使用できるものも検討する。研究成果(平成23年度分も含める)を、国内・国際学会や学会誌において、精力的に発表する。それらのための旅費及び論文投稿料の予算を計上する。
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