研究課題/領域番号 |
23740353
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
田口 正和 愛知教育大学, 教育学部, 准教授 (50397527)
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キーワード | 準二年周期振動 / 季節同期 / 力学的診断 / 重力波 |
研究概要 |
地球の気候システムにおいて対流圏―成層圏結合の重要性が強く認識されていることを踏まえ、本研究は、熱帯成層圏の準二年周期振動(QBO)の変動を調査する。 平成24年度(2012年度)においては、気象庁・電力中央研究所によって整備されたJRA-25/JCDAS再解析データ(以下では、JRAデータと称する)と気象研究所化学気候モデル(CCM)データを用いて、QBOの季節性とその力学を検討した。QBOの季節性とは、ある高さで、東西風の逆転が決まった季節に起きる傾向にあることである。 JRAデータの東西平均東西風は、QBOの季節性を概ね再現する。このことは、JRAデータが熱帯域のラジオゾンデ観測データを同化していることから、予期される結果である。JRAデータにおけるQBOの季節性の理由を調査するため、同データを用いて、東西方向の運動方程式の診断を行った。その結果では、QBOの季節性に重要な東西風加速が、陽に計算される項では説明できないことが明らかとなった。このことは、東西風加速が、データが陽に表現できない成分によって寄与されていることを含意する。データの時空間分解能から、そのような成分とは、小規模の重力波と考えられる。この解釈は、JRAデータが、非地形性重力波のパラメタリゼーションを含まないことと整合的である。 CCMデータは、QBO自体はある程度よく再現するものの、観測されるような季節性を再現しない。それは、このモデルでは、非地形性重力波の効果が、時間(季節)的に一定のソースを仮定するパラメタリゼーションで表現されていることと整合的である。 以上の結果は、日本気象学会出版の気象集誌に受理され、2013年6月に出版の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度の進展度は、「やや遅れている」、である。これは、本計画が、当初2年度(2011~2012年度)のものであったが、さらに1年(2013年度に)延長されることを反映している(延長申請は承認済みである)。 研究期間延長の大きな理由は、再解析データを用いた解析は、季節性とその力学については一定の成果を得た一方で、CMIP5等のデータ収集・解析が、主としてサーバー・ネットワークの混雑により、当初の予定通りには行われていないからである。CMIP5とは、世界中の研究機関で、全球気候モデルシミュレーションを組織的に遂行・比較するプロジェクトである。本計画は、目的に沿って利用できる範囲で、CMIP5の公開データを収集・解析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度においては、再解析データ・CMIP5データの双方において、対象データ数を増やして、QBOの再現性やそれらの力学をさらに調査する計画である。 再解析データにおいては、対象データを増やして、QBOの力学的診断について理解を深める。これまでのJRA(JRA-25)データを用いた力学的診断では、QBOの東西風加速が大きな残差として残った。この結果は、このデータに含まれない非地形性重力波の寄与であると考えた。今年度は、非地形性重力波のパラメタリゼーションを含む再解析データについて同様の診断を行い、この仮説を検証する。そのようなデータとしては、例えば、ERA-Interimデータや、JRA-55データがある。前者については、一部収集・整備済みである。後者のデータは、JRA-25と直接的に比較可能な点が興味深いので、今年度に間に合えば対象とする。 CMIP5データにおいては、データの収集・整備を進めると同時に、QBOの再現性(大まかな特徴、季節性、ENSO依存性)とその力学的診断を行う。先行研究が、CMIP5のモデルのごく一部がQBOを示すことを明らかにしているので、その結果を検証するとともに、QBOの変動・力学について精査する。さらに、中高緯度大気に対するQBOの影響という点にも視野を広げて調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の多くは、上記の研究成果を発表するための費用として使用する計画である。発表の費用とは、国内外における学会発表の旅費、論文出版費用、などである。参加を予定・検討している学会は、DynVar/SNAPワークショップ、アメリカ気象学会中層大気会合、SPARC一般集会、日本気象学会春季・秋季大会、日本地球惑星連合大会、などである。
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