研究課題/領域番号 |
23740354
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野口 尚史 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10447906)
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キーワード | 二重拡散対流 / 混合 / スケール間相互作用 |
研究概要 |
本研究課題は、海洋中で層構造が二重拡散対流によって作られるメカニズムについて、数値実験・室内実験および理論により調べるものである。 温度・塩分が異なる水塊どうしが接する海域では、温度・塩分の水平勾配が非常に大きい「熱塩前線」ができている。たとえば黒潮と親潮の境界の黒潮前線がその例である。前線を挟んで密度がほぼ等しく、力学的には安定な場合であっても、温度・塩分の差によりこの前線面は二重拡散対流に対して不安定で、前線面は変形し、両側の水塊が薄い層に分かれて互いに貫入しあう現象が起きることが知られている。これは前線における微細スケールでの混合の大きな担い手である。混合により大スケールの循環が生じるため、海洋の循環を理解するうえで重要な現象であると考えられている。 本年度は、昨年度までに実験的・数値的に見いだされた現象、前線を挟む温度・塩分の差がある値を超えると貫入する層の傾きが逆転すること、について理論的な見通しを立てることを行った。これは理想化した層構造(鉛直方向に周期的)について、微細な対流による密度輸送と大スケールの輸送(層内部の水平輸送)とのつり合いを、これまでに知られているパラメタ表現を用いて表すという非常に簡単化した物理モデルである。このモデルの解は層の傾きの定性的な変化傾向をよく表現できることが分かった。 この結果について学会発表を行い、また論文を投稿準備中である。室内実験を行なううえでのパラメータ範囲や現象の性質などのさらなる見通しを得た。 また、昨年度後半から今年度前半については日本学術振興会「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」によりケンブリッジ大学に研究滞在した。当該研究課題の結果の一部についてもセミナーでの講演および英国の他大学の研究者と議論・情報交換を行なった。当該テーマについての動向や、研究の独自性を高めるための要点などについて重要なヒントを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時には決定していなかったキャンパス移転が本年度に行なわれたため、実験装置を購入・設置しても、すぐに輸送のため実験を停止せざるを得ない。また輸送による装置の破損・変形などの影響を避けるため、室内実験を移転後に延期することにした。 また、日本学術振興会「組織的な若手研究者等海外派遣プログラム」によりケンブリッジ大学へ11ヶ月間派遣されたため、準備・渡航中・渡航後の作業により研究計画が遅延した。
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今後の研究の推進方策 |
上で述べたキャンパス移転により、室内実験の開始を遅らせることにしたため、実験に関わる費用の執行は次年度に持ち越した。実験室の設計・装置設計など移転後に実験が速やかに再開できる準備を行った。 本年度得られた結果を検証するものでもある。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は主に実験装置群の購入と設置に充てるほか、成果発表も進めるため旅費・投稿料などに使用する。 実験については予定していた運動の計測と密度輸送との関係を中心に調べる。このため既存の流体運動計測システムに加えて、電気的・光学的に密度を計測するための測定器を購入する。さらに、微細スケール運動の内部構造をより詳細に再現する数値シミュレーションのため、数値計算サーバを増やすことに充てる。 これまで得られている成果を現在投稿準備中であるほか、国際学会(ヨーロッパ乱流シンポジウム2014)での発表を行う予定である。これらの成果発表のための投稿料および参加費・旅費にも充てる。
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