研究課題/領域番号 |
23740361
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
増田 周平 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, チームリーダー (30358767)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | データ同化 / 気候変動 / 海洋深層 |
研究概要 |
本研究の目的は、太平洋で初めて底層昇温が発見されて以来、続けてその存在が確認された大西洋・インド洋海盆での底層昇温現象のメカニズムを解明することで海洋全層の貯熱量変化のうち、これまでほとんど考慮されることのなかった深層の寄与についての知見を得ることであり、これにより長期の気候変動現象に深いかかわりを持つことが知られている海洋全層の熱バランスに対する海洋深層の役割を明らかにすることができる。この目的のため、今年度は大西洋、インド洋底層における変動の起源海域・時間スケール・引き金となる変動現象を解明するべくMasuda et al.(2010) と同様の手法を用いて四次元変分法データ同化システムを用いた感度解析シミュレーション実験を超大型並列計算機地球シミュレータを用いて実施した。具体的には、大西洋南緯10度西経30度のブラジル海盆およびインド洋南緯38度東経130度の南オーストラリア海盆で観測された底層昇温地点に水温上昇のシグナルを与え、50年間の感度解析シミュレーションを行った。その際、すべての力学を含んだ感度実験とともに海洋波動力学を考慮に入れない(流速のアジョイント計算コンポーネントを用いない)対照実験を行い結果を比較した。大西洋のケースでは海洋波動の働きで昇温シグナルが数十年程度で南極周極流中層海域まで追跡できるのに対し、波の力学を考慮に入れないケースでは大きなシグナルの伝搬は見られなかった。感度解析シミュレーションとは数値モデル計算で再現される海洋の状態がどの物理場(例えば、水温場、流速場)の変化にどの程度依存しているかを求める数値シミュレーションであり、このケースでは南極周極流速への依存性を定量的に評価することで海洋波動を介した大循環場の変化と底層昇温現象の関係を明らかにできる可能性がある。インド洋のケースについても同様の対照実験を行い現在解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では海洋底層の昇温が太平洋での発見に引き続き確認されている大西洋、インド洋海盆においてMasuda et al.(2010) と同様の手法を用いて四次元変分法データ同化システムを用いた感度解析実験を行い各々の海盆における変動の起源海域・時間スケール・引き金となる変動現象を解明するとともに、最近50年の全球海洋貯熱量変化に対する深層昇温の影響を定量的に評価することを目的としている。初年度である今年度は超大型計算機の地球シミュレータを活用し、計画通りに、南大西洋と南インド洋で観測された底層昇温地点に水温上昇のシグナルを与える50年間の感度解析シミュレーションを実施した。この実験を行うにあたっては、変分法同化の専門家である研究協力者の意見を取り入れ、効率的な計算スケジュールを構築し、短期間での実計算時間を実現している。このことにより当初予定より多くのケース実験をすることが可能となり、いくつかの対照実験も年度内に完了することができた。また、新たに計算サーバを導入することで、共用マシンを用いるより、より効率的に計算結果のエクスポートと力学解析ができるようになり、次年度の予定であった計算結果の物理的解釈の準備にまで取り掛かることができた。得られた結果は太平洋の場合と異なるいくつかの興味深い成果を含んでおり、結果は速報的に国際学会で発表する予定である。すでに次年度の国際学会にエントリーしており、口頭での発表を許可されている。(平成24年5月現在、口頭発表1件終了済み。)
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に行った感度解析シミュレーション実験の結果から得られた各物理変数に対するアジョイント変数を定量的に評価することで、インド洋、大西洋での底層昇温がどのような時間スケールでいかなる力学過程を経て生じたものかを調べる。その際、これまでの観測・理論研究、特に北太平洋での研究結果(Masuda et al., 2010)と比較しつつ、物理的な解釈を加える。また、最新の知見に基づき対象大洋を海盆ごとに細分化して追加の感度解析シミュレーション実験を行うことで、底層昇温現象がどの程度の空間規模を持った現象なのかなどを詳細に調べる。最終年度には四次元変分法全層海洋データ同化システムから得られている長期の海洋環境統合データセット(例えばMasuda et al., 2009)を用い、各海盆における底層昇温が全球的な貯熱量変化にどのような寄与を持っているかを、過去50年間にわたって評価し、その変動と底層昇温のメカニズムの関係、特に各海盆での昇温を引き起こす海面での気候変動現象(熱交換)との関係を定量的に調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は夏季の電力供給量削減などの影響で、地球シミュレータなどを用いた大規模計算の実施に非常にデリケートな対応が必要であったため、謝金等による研究補助費用を活かした計算機運用(計算補助の業務委託)が難しい状況であった。今年度は新たなシミュレーション実験も複数ケース予定しているので、ストレージの空き状況などを鑑み早期に計画を立てて研究補助費用を有効に活用し効率の良い成果の獲得を目指したい。また、得られた成果は速やかに公表するよう心がけ、それに伴う国内外の旅費、論文校閲および論文投稿費用などは当初計画通りに執行させていただく予定である。
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