研究課題/領域番号 |
23740361
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
増田 周平 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, チームリーダー (30358767)
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キーワード | データ同化 / 気候変動 / 海洋深層 |
研究概要 |
本研究の目的は、全球海盆で確認されている底層昇温現象のメカニズムを解明するとともに海洋全層の貯熱量変化のうち、これまでほとんど考慮されることのなかった深層の寄与についての知見を得ることである。これにより長期の気候変動現象に深いかかわりを持つことが知られている海洋の熱バランスに対する海洋深層の役割を明らかにすることができる。 本年度は昨年度までに実施された大西洋、インド洋海盆を対象としたアジョイント感度解析シミュレーションの結果を解析し、いくつかのケーススタディー実験を追加的に行った。実験には超大型並列計算機地球シミュレータを用いた。 大西洋南緯10度西経30度のブラジル海盆に水温上昇のシグナルを与えた実験結果では、数十年の時間スケールで南極周極流域中層までシグナルを追跡できた。これは南極周極流の経年変動が数十年の時間スケールを経て底層の昇温を引き起こしている可能性を示している。この時間スケールは太平洋海盆でのそれとは異なり、海面(大気変動)の情報が深層に到達するまでより長い時間がかかることを示唆している。また、流速変動と密接に関係していることから、風応力の変化と海洋の熱バランスがリンクしていることが考えられる。 インド洋南緯38度東経130度の南オーストラリア海盆でシグナルを与えたケースでは、シグナルは南極周極流域に戻るものと、北上しインド洋北部まで追跡できるものが確認できた。どちらのケースでもやはり50年間で海面まで追跡できず、大西洋のケースと類似したパスウェイを持っていることが分かった。 また、貯熱量変化の解析をすすめるべく、太平洋海域において貯熱量変化そのものを対象とした感度解析実験も実施し、貯熱量変化の考えられる原因を50年の時間ウィンドウで3次元的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度の実験結果を解析することで、深層昇温メカニズムに関するいくつかの新たな知見を発見できた。それらの結果は国際学会で公表されている。また、それらの結果を受けて、本研究の最終的な目的である海洋貯熱量変動への役割を明らかにするうえで重要なヒントとなる、貯熱量自体を対象とした新たな感度解析実験を実施できた。このことで最終年度における解析の幅が大きく広がった。 後者の実験を実施するに当たっては研究協力者並びに本予算で使用させていただいた計算コード修正の役務執行などが大変有意義に機能しており、課題達成度の評価に大きく貢献している。 また、貯熱量変動に関する結果の一部は、国際誌に投稿されている。(平成25年5月現在、査読中。)
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今後の研究の推進方策 |
平成23・24年度に行った感度解析シミュレーション実験の結果を取りまとめ、各海盆(太平洋、大西洋、インド洋)における底層昇温のメカニズムとそれが引き起こされることによる力学定常場としての安定性などを解明していく。また、四次元変分法全層海洋データ同化システムから得られている長期の海洋環境統合データセット(例えばMasuda et al., 2009)を用い、各海盆における底層昇温が全球的な貯熱量変化にどのような寄与を持っているかを、過去50年間にわたって評価し、その変動と底層昇温のメカニズムの関係、特に各海盆での昇温を引き起こす海面での気候変動現象(熱交換)との関係を定量的に調べる、得られた結果を公表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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