研究課題/領域番号 |
23740362
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
望月 崇 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 特任技術研究副主幹 (00450776)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 気候予測 / 地球温暖化 / データ同化 / 太平洋十年振動 / 海洋フロント / 大気海洋相互作用 |
研究概要 |
本研究課題の特色は,十年規模気候変動のプロセスを明らかにする試みにおいて,再現・予測データを活用することである。当初から利用予定であった気候モデルMIROC3を用いて作成された十年規模気候変動再現実験データ(昨年度までに既に作成済み)に加えて,本年度は最新の気候モデルMIROC5を用いた実験データも利用できるようになったため,これら二つのデータセットを活用してプロセス研究を開始した。MIROC5を用いた最新データを扱うことも考慮して,本年度は高い予測性能が見られる二つの注目海域の水温変動プロセスを(海洋上層の詳細な鉛直構造などにはまだ踏み込まず)大局的に解析した。その結果,ハワイ諸島の北西方海域において,海洋大循環にまつわる水温変動が最も重要な役割を果たすことがわかった。しかし同時に,海洋フロント域の詳細なプロセス研究を目指した場合には,当初のデータセットでは実験例数が少ないために,信頼性の高い解析が難しいことも明らかになった。本年度後半には,いずれの気候モデル実験においても,利用できるデータの実験例数が当初の5倍に増えた。より信頼性の高い解析により,ハワイ諸島の北西方海域の十年規模水温変動について,海洋大循環の寄与がより有意に確認されるとともに,不確定性を生む主要因となることがわかった。もうひとつの注目海域である黒潮親潮続流域では,ハワイ諸島の北西方海域よりもノイズが大きいため,実験例数の増加は本研究課題において大変重要な要素であった。(数値モデルはその位置や強度に系統的なエラーをもっているが)アリューシャン低気圧の寄与,より元をたどれば,赤道太平洋の水温変動からの遠隔的な寄与の重要性が示唆された。これは,たとえ十年変動に注目しても,エルニーニョ現象のような短期現象にまつわるプロセスの重要性を示しており,プロセス研究だけでなく気候予測研究の観点からも興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で研究期間内に明らかにしようとしているのは,北太平洋中緯度(亜熱帯反流の見られる海域(ハワイ諸島の北西方海域)と黒潮親潮続流域)の十年変動の物理プロセスである。これらについて,本年度はまず大局的な知見を得た。利用する予定だった十年規模気候変動再現実験データにおいて,北太平洋での全般的な予測性能は既に確認されていた。それに加えて,本年度途中からはより高い再現性能が期待される最新の気候モデルを用いたデータセットも利用可能になった。これらを併せて解析することが本研究課題にとって有用であると判断したため,細かい鉛直構造などの前に,まずは両データからフロント域の十年変動にとって重要と思われる物理プロセスの概観を掴むことに注力した。この結果,亜熱帯反流の見られる海域では亜熱帯循環変動にまつわるプロセスに,黒潮親潮続流域ではアリューシャン低気圧の変動(と熱帯水温変動)からの寄与に,それぞれ注目しながらさらに研究を遂行すべきであるという今後の研究の方向性が示された。概略とはいえ,もちろん物理プロセスへの重要な示唆を与えるものであり,結果の一部については査読付き投稿論文として発表した。また,気候予測を中心テーマにした学会だけではなく,北太平洋海洋科学機構(漁業・水産学)や化学工学会(地球化学)といった他分野の学会においても成果発表した。一般的に十年変動はノイズが大きいので,解析における不確定性に注意深くなる必要がある。当初の計画から実験例数が5倍になった追加データの初期解析からは,いずれの数値モデルの実験結果も(なかでも最新モデルの実験結果は)本研究課題のプロセス研究に耐えられる程度のノイズであるということもわかった。特に,よりノイズの大きな海域である黒潮親潮続流域に対する研究には重要な点である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究によって注目すべき二つの海域の十年変動における重要なプロセスの概略を掴めた。また,実験例数が5倍のデータセットの解析にも着手して,本研究課題での有用性も確認した。そこで,次のステップとしてあげられることは,まずは亜熱帯反流の見られる海域の鉛直構造や,水塊について詳しく調べることである。また,黒潮親潮続流域の物理プロセスの研究も深めてゆく。この方向性について特に研究計画を変更する必要はない。結果は学会発表するとともに,投稿論文にまとめる。研究計画の変更点として,既に着手していることだが,最新の気候モデルMIROC5の再現実験データも使用することがあげられる。MIROC5は大気・海洋・海氷・陸面の物理過程について多くの計算スキームが修正・新規採用され,その結果エルニーニョ現象の表現などが大きく改善していることがわかっている。また,太平洋十年振動の再現・予測性能も期待通りに高い。そのため,亜熱帯反流の見られる海域の研究はもとより,本年度に赤道太平洋からの寄与の重要性が示された黒潮親潮続流域に関する研究においては特に重要な再現実験データである。超高解像度モデルの予測データの使用も当初は計画していた。しかし,北太平洋全体を大まかにとらえるのではなく,海洋フロント域に注目するような解析をおこなうには,現時点での超高解像度モデルデータはアンサンブル数も実験例数も相対的に不足している。そのため,超高解像度データはもちろん魅力的な点もあるが,フロント域のプロセス研究で有意な議論をおこなうにはこの不確定性の大きさは弱点になる。ターゲットにすべき変動を今よりもさらに絞ってから超高解像度データを扱うほうが,期待される成果は大きいと思われるので,本年度に概略を掴んだ再現実験データセットをより詳細に調べることを優先する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題で詳しく調べている近未来気候変動予測実験データは文部科学省「21世紀気候変動予測革新プログラム」において作成されたものであるが,当プログラムは平成23年度をもって終了した。十年気候変動再現・予測データの作成には独立行政法人海洋研究開発機構だけではなく,東京大学大気海洋研究所,国立環境研究所,気象庁気象研究所などの研究者が深く携わっているので,密接な情報交換を保つことが必須であり,国内旅費が必要である。また,十年スケール変動(北海道大学など)やデータ同化(京都大学)といった当該分野で日本が世界をリードしている分野の研究者たちとの情報交換も重要である。本年度は当初の計画を超えて,最新の数値モデルを用いた再現実験データセットや実験例数が増加したデータセットも活用することができたため,気候モデルの出力データをあまり加工することなく大局的な解析をおこなった。しかし,より詳細な解析をおこなうには,気候モデルの出力そのものは座標や物理量の点で必ずしも適したものではないため,加工した大量のデータを格納・読み書きするための大容量磁気記憶装置などが必要である。また,莫大な量の気候モデルデータを解析するために性能の高い解析用計算機も求められる。十年気候変動はプロセス研究だけではなく予測研究としてもホットな分野のひとつなので,北太平洋海洋科学機構をはじめとして国際的な情報発信はこまめにおこなっていくことが重要である。翌年度以降も含めて,研究成果発表や論文投稿に関わる費用が必要であり,特に国際誌に投稿する際には英文校閲が必須であるのでそのための費用が必要である。
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