研究課題
赤道準2年振動(QBO)は赤道域成層圏で見られる現象だが、その影響は北極から南極、対流圏から中間圏へと、非常に広い範囲まで及んでおり、気候変動を考えるうえで重要な現象の 1つである。IPCC第4次成果報告書の中には、温暖化に伴う重力波活動とQBOの変化に関する記述は無かった。そこでKawatani et al. (2011)はQBOを再現可能な気候モデルを用いて現在気候実験に比べ温暖化気候実験ではQBOの周期が長く、振幅は弱くなり、位相が下部成層圏まで下り難くなる事を示した。 ところで、将来の二酸化炭素濃度が実際にどの程度増加するかは不明であり、また将来の海面水温変化は使用する大気海洋結合モデルに強く依存する。従ってQBOの将来変化に対する二酸化炭素濃度と海面水温の役割を個別に評価する必要がある。そこで本研究では、新たに現在の二酸化炭素濃度+将来の海面水温(FS実験)、及び将来の二酸化炭素濃度+現在の海面水温(FC実験)の理想実験を行い、出力データを詳細に解析した。 将来の海面水温変化はQBOの周期を1-3か月、二酸化炭素濃度変化は1か月長くする効果があった。FS実験においては、温暖化実験と同様に赤道域の降水量が増え、重力波がより多く励起される。赤道域上昇流は下部成層圏で増加するが、中部成層圏では温暖化実験ほど増加しない。FC実験では重力波フラックス変化は殆ど無い。温暖化実験と異なり、低緯度上部対流圏では東風偏差が形成され、中緯度下部成層圏において西風加速偏差が形成される。その結果80hPa付近の上昇流は弱まり、QBOは成層圏最下層まで下りやすくなる。一方で70hPaより上では安定度が弱まる事と対応して上昇流が全体的に強まり、QBOの周期は長くなる事が分かった。
2: おおむね順調に進展している
気候モデルを本研究に遂行可能な仕様に構築した。波動-平均流相互作用をより良く表現する為に鉛直解像度は500mに設定した。当初の予定通りQBOのシミュレーションに成功した。モデルの初期設定・実験は順調に進んでいる。また成果を1本の論文として発表することが出来た。
気候モデルを用いた温暖化実験に着手する。地球温暖化時の海面水温や海氷などの境界条件は、世界の大気海洋結合モデルで予測されたデータを使用する。大気中の二酸化炭素濃度は2倍に設定し20年間積分する。温暖化に伴う中層大気子午面循環の変化、重力波の運動量フラックス・東西風加速や伝播特性の違いを解析する。
データ解析・論文作成用のノートPCを購入する。成果発表のための旅費を計上する。
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Journal of the Atmospheric Sciences
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Journal of the Meteorological Society of Japan
巻: 90A ページ: 351-360