研究課題/領域番号 |
23740364
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
千喜良 稔 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 研究員 (20419146)
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キーワード | サーマル / エントレインメント |
研究概要 |
一昨年度は、Jung and Arakawa (2008)に基づく、渦度を直接予報するタイプの渦解像モデル、「ベクトル渦度モデル」の開発を行い、力学過程の基本部分についての開発を終了した。しかし、一昨年度の段階では、実験結果の出力ルーチンは、テスト目的のためのごく簡単なものとなっていた。昨年度は実験結果の出力ルーチンをより汎用的なものにする作業を行った。具体的には、複数の変数を、与えられた時間間隔でNetCDF形式のファイルとして保存できるようにした。また、一昨年度を終了した段階では、渦度や温度の拡散過程の取扱いを先延ばしにしていたが、昨年度の作業において、それらの拡散過程を導入した。 また、昨年度後半からコロラド州立大学へ派遣されたため、同大学のコンピューター環境への同モデルの移植を行う必要が出てきた。同大学のコンピューター環境におけるFORTRANコンパイラの仕様を調べ、コンパイルオプションなどを調整して、同大学のコンピューター上で実験を行うことができるようにした。また、同大学で利用しているスーパーコンピューター上でも実験を行うことができるようにした。 同モデルを用いて、乾燥空気・中立成層の条件のもとでのサーマルの初期値実験を様々な空間解像度・時間ステップで行い、適切な空間解像度、および時間ステップの同定を行った。また、サーマルにおけるエントレインメントの量を見積もる方法について検討を始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度は、本研究と並行して進めていた季節内振動に関する研究の論文をまとめる時期にあたり、多くの時間をその作業に費やさざるをえなかった。また、昨年11月からコロラド州立大学への長期留学をすることとなったため、留学の準備や生活のセットアップに多くの時間を費やした。また、同大学側から新しい研究の依頼をされたため、渡米後はその研究と本研究を同時並行で進めることとなった。以上のような理由により、当初計画していたようには十分な時間を本研究に割くことができなかった。 しかし、昨年度はじめにはテスト用の実験しかできなかったモデルをより汎用的なものに改良する作業を行い、また、様々な予備実験を通して適切な解像度・時間ステップ等について見通しが得られている。本研究の主要目的を達成していくための準備は整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に多くの時間を割かざるを得なかった季節内振動の研究が一段落したため、今年度は多くの時間を本研究に費やすことができる見込みである。また、コロラド州立大学に滞在中、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の荒川名誉教授と新しい共同研究を開始することになった。同名誉教授は大気モデルの開発・積雲対流に関する世界的な権威であり、同共同研究だけでなく、本研究に関しても有益な助言が期待できる。 具体的な作業に関しては以下の通りである。エントレインメントの量(サーマルの外部の空気がサーマル内に取り込まれる量)を知るには、サーマルの内部と外部を区別しなければならない。それをどのようなやり方で行うのが良いのかについて検討する。また、成層の安定度、鉛直シアー、サーマルの初期の浮力やサイズを様々に変化させた実験を行う。こうして得られた実験結果について、エントレインメントの振る舞いを解析する。具体的には、相似則を用いた解釈、渦度やエネルギーの生成と関連づけた解釈などを試みる。必要に応じて、湿潤過程を含めた実験を行い、乾燥空気のサーマルとの共通点と相違点を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、本研究に関係する有益な情報交換のための、諸々の研究会および特定研究者との議論のための出張旅費に主たる研究費を使用する予定である。また、本研究を効率的に進めるのに必要なコンピューター関係の周辺機器・ソフトウェアにも研究費を一部使用する予定である。
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