研究課題/領域番号 |
23740365
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研究機関 | 独立行政法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
黒田 寛 独立行政法人水産総合研究センター, 北海道区水産研究所, 研究員 (30531107)
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キーワード | 国際情報発信 |
研究概要 |
H24年度はH23年度に開発した黒潮域サブメソスケールモデルの出力を解析した。2008年1月以降の2年間を積分しており、2009年4月後半に発生した典型的な黒潮暖水の波及過程を調べた。その結果、①黒潮が非大蛇行離岸流路をとる際に、②伊豆諸島北側域において黒潮内側の前線付近から引き金となる不安定が発生し、③不安定は発達しながら、内側反流をともなって伊豆諸島、駿河湾、遠州灘、熊野灘の順に暖水波及することがわかった。ただし、H23年度に作成したプロトタイプモデルでは、5~10日ほど観測よりも暖水波及が遅れて再現される。そのため、Scale-selectiveデータ同化手法において、サブメソスケールモデルの修正に用いる海況予測システムの再解析値の時間を人工的にずらすことで、暖水波及発生のタイミングを制御する改良を実施した。 沿岸漁場へのシラスの来遊経路を推定するための粒子追跡モデルを開発した。本モデルでは時間的に順方向と逆方向で粒子追跡が可能である。静岡県沿岸のシラス漁場を想定し、漁場付近に粒子を配置し、5日間の逆追跡を実施した。粒子追跡の実施前の想定では、ほとんどの粒子が漁場南方の黒潮域から供給されると予想していたが、漁場西方の熊野灘や漁場東方の相模湾側からもシラスの来遊が推定され、静岡県沿岸における来遊経路はそれほど単純ではない。次に、順追跡と逆追跡を用いて、漁場への来遊確率と漁場での滞留時間を調べた。その結果、典型的な暖水波及が発生する場合には、シラスの供給源は黒潮域に限定され、来遊確率は増加するが滞留時間が短いため、漁場が形成されても短期間しか維持されない可能性がある。一方、注目すべきは、来遊確率が高めで推移し滞留時間が長い場合であり、この時、シラスの供給源は複数存在し、息の長い漁場形成・維持に関連している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では、黒潮域サブメソスケールモデルの開発とシラス輸送モデルの開発という二本立てで研究が実施されているが、いずれのモデル開発についても研究計画通り進行しており、概ね順調と判断している。また、H24年度には、後者のモデル開発だけではなく、本モデルを用いて、シラスの来遊経路や漁場形成の維持期間に関わるIndexを算出できたことは重要な成果の一つかもしれない。また、国際学会ECSA2012や国際会議PICES2012においても研究成果を公表している。さらに、本成果の波及効果も表れ始めている。例えば、本申請課題で作成したシラス輸送モデルの基盤にある粒子追跡モデルを汎用化して、水産庁委託事業でのスルメイカ研究などにすでに活用されており一定の成果が出つつある。また、汎用版の粒子追跡モデルやScale-selectiveな同化手法を応用したプロジェクト研究に現在申請中であり、本申請が通れば、北海道周辺海域におけるホタテの実用的研究にも本課題は大きく貢献することになる。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度に実施した来遊経路の推定と漁場形成機構の解明を継続して行う。研究の一つのポイントとしては、「来遊確率が高めで推移し、滞留時間が長い場合の特徴として、シラスの供給源は複数存在する」ことの物理機構を明らかにしたいと考えている。加えて、2008~2009年の2年間に限定されている計算期間を1~2年延長する予定である。また、H24年度には静岡県海域のみを対象としてきたが、黒潮内側域のより広い範囲において、暖水波及やシラスの来遊経路を包括的に理解するために、研究対象海域を駿河湾~房総半島付近まで広げる計画である。この場合、先行研究として実施された、千葉県水産総合研究センター(本課題の研究協力機関)による係留流速観測に基づく急潮解析の結果などを利用して、モデルの再現精度を再度確かめる計画である。また、研究活動以外においては、国内外の学会、研究所の広報誌やインターネットなどを通じて成果を公表するアウトリーチ活動にも力を入れ、本課題の成果を他の研究や事業に還元する方向で一層の普及をはかる計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度が本課題の最終年度となるため、国内外(日本海洋学会、水産海洋学会、Ocean Sciences Meeting 2014など)における成果の公表活動に力を入れたいと考えており、物品よりも旅費への支出割合が高くなるはずである。また、本課題が始まって以降、国際会議PICESにおいて領域気候モデリングのワーキングチームに参加しており、本課題の成果はH24年度のワーキンググループでも公表しており、国際的な領域気候モデリング研究や枠組み作りに貢献している。H25年度は、この会合がカナダで、また、それに付随した国際会議がプサンで開催されるため、参加のための旅費を支出する予定である。
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