日本南岸沖黒潮域におけるサブメソスケール変動を忠実に再現できる海洋モデルを構築し、黒潮前線付近から沿岸方向に間欠的に生じる典型的な暖水波及を再現し、海洋モデルの流動場を用いて各種稚仔魚(以下、シラス)を模したシラス輸送実験を行い、沖合から沿岸へのシラスの来遊経路の推定とシラス漁場の形成機構を究明した。まず、日本南岸沖の黒潮域を対象とする広域の三重入れ子サブメソスケールモデル(1/50°)を開発した。海洋モデルにはあまり適用されないScale-Selective Data Assimilation (SSDA)法を導入し、100km以上スケールのメソスケール変動のみを親モデル(1/10°)の再解析値を用いて修正することで、黒潮流路変動などのメソスケール変動に起因するサブメソスケール変動の再現性を向上させた(H23-25年度)。本研究では、主に、2009年5月初旬に伊豆諸島~駿河湾~遠州灘で発生した大規模な暖水波及を再現し、発生過程とシラス輸送の特性を記述した。シラスの来遊経路を推定するために、汎用的な粒子追跡モデルを開発し、静岡県沿岸のシラス漁場付近に粒子を配置し、2009年春~初夏におけるシラス輸送実験を実施した(H24-25年度)。逆追跡の結果、沿岸漁場で採捕されるシラスの多くが黒潮内側反流により東側海域から供給され、一方で、西側海域からの供給も無視できないことがわかった。さらに、暖水波及と漁場形成・維持について調べた結果、大規模な暖水波及は遠方沖からシラスを沿岸漁場に大量に供給するものの、漁場でのシラスの滞留時間は短い。即ち、小規模な暖水波及によるシラス供給かつ滞留時間が長い海洋環境が形成されると、好適なシラス漁場が長期間継続されることがわかった。H25年度は、SSDA法の諸パラメータ値を変更した感度実験、房総半島東岸沖の暖水波及の再現性の検討、さらには、学会や研究会でのアウトリーチ活動にも注力した。
|