研究課題/領域番号 |
23740366
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
細川 敬祐 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (80361830)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 極域電離圏プラズマ |
研究概要 |
2011 年 12 月, 2012 年 1, 2 月の期間に, カナダ北部のレゾリュートベイにおいて, カナダのサスカチュワン大学, 米国ボストン大学, 同スタンフォード大学 SRI International と共同で, 高感度大気光イメージャとレゾリュートベイ非干渉性散乱レーダー(RISR-N)によるポーラーパッチのキャンペーン観測を実施した. この観測は, 水平 2 次元面内においてパッチの空間構造を撮像することができる全天イメージャと, 鉛直方向に物理量を連続的に取得することができる RISR-N を連係させ, ポーラーパッチの空間構造を 3 次元的にイメージングすることを目的としている. 観測期間中の数晩において, 全天大気光イメージャによる, ポーラーパッチの 2 次元撮像観測に成功している. また, パッチがレゾリュートベイ上空を通過した時間帯において, RISR-N は電子密度の上昇を観測しており, この同時観測によって得られたデータセットは, ポーラーパッチの 3 次元構造を解明する際に非常に重要な意義を持つものとなっている. このデータを解析し, 同じくレゾリュートベイの近傍に配備されている短波レーダーや GPS シンチレーション観測網のデータも相互補完的に活用していくことで, 衛星通信・測位に影響を及ぼす電子密度擾乱が, ポーラーパッチのどの部分において発生しているのかを 3 次元的に明らかにすることができる. また, 新規の観測を行うことと並行して, 過去に取得された同時観測事例に基づいて, パッチの動的な特性を解析した. この作業は, ボストン大学と共同で行われ, Geophysical Research Letters 誌に初期結果が掲載されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定をしていた通り, 2011 年 12 月, 2012 年 1, 2 月に, レゾリュートベイにおいて, 高感度大気光イメージャと非干渉性散乱レーダーによるポーラーパッチのキャンペーン観測を実施することができた. この観測期間中の数晩において, 惑星間空間磁場が南を向く時間帯があり, その時間帯においてポーラーパッチをレゾリュートベイ上空で捉えることに成功している. 観測データが得られて間もないため, 全天イメージャと非干渉性散乱レーダーのデータを組み合わせて, ポーラーパッチの空間構造を 3 次元的に可視化するには至っていないが, 当該観測期間中は天候に恵まれ, 非常に良好なデータが取得できているため, 今後データ解析を行っていくことでポーラーパッチの空間構造を 3 次元的に可視化することができると考えている. 新規観測の実施と並行して, 過去に実施された全天大気光イメージャと非干渉性散乱レーダーによるポーラーパッチの同時観測事例を, 米国ボストン大学の Hanna Dahlgren 博士と共同で解析し, パッチが磁気圏からの間欠的な粒子の降り込みによって作られていることを示すことができた. この成果は Geophysical Research Letters 誌に初期結果が掲載されている. また, Dahlgren 博士と共同で, パッチ近傍において短波レーダーによって観測されたプラズマイレギュラリティの性質に関する研究も行った. これにより, パッチの全域において衛星通信環境に影響を及ぼす可能性があるイレギュラリティが発生していることが明らかになっている. この成果はすでに論文としてまとめられ, Journal of Geophysical Research 誌に近日中に投稿される予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2012 年度, 2013 年度の冬季にも, 継続して全天大気光イメージャとレゾリュートベイ非干渉性散乱レーダー(RISR-N)によるポーラーパッチのキャンペーン観測を実施する. 2011 年度に実施した特別観測の結果に基づいて, レーダー運用モードの最適化を行う. 2011 年度の観測では, 計 25 本のビームを用いて全天イメージャ視野内の北側の領域を集中的に観測したが, ビームの数を段階的に増やし, より細かい空間構造をレーダーデータから引き出すための工夫を行う. また, レゾリュートベイ非干渉性散乱レーダーの二つ目のパネル (RISR-S) が 2012 年末頃には運用を開始すると予想される. より広い観測視野を得, パッチの空間構造をより詳細に把握するために, RISR-S の運用の同時運用も視野に入れて特別観測の立案・計画を進めていく. 新規観測の立案・実施と並行して, 2011 年度の観測によって得られたデータを用いたポーラーパッチの 3 次元空間構造の可視化を行い, 得られたパッチの 3 次元分布をもとに, パッチがレゾリュートベイ上空を通過する間に, どのように電子密度を変化させるかを把握する. また, カナダ極冠域に広く展開された GPS シンチレーション観測網 (CHAIN) による観測, および 極冠の観測に特化した大型短波レーダー (PolarDARN) の観測を組み合わせ, ポーラーパッチ近傍の密度微細構造(プラズマイレギュラリティ)が, パッチの 3 次元構造のどの部分において生じているのかを明らかにしていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
申請時には, 2012 年度には非干渉性散乱レーダーのデータを蓄積する大容量記憶装置を導入する予定であったが, 別予算によってレーダーデータを格納することができる大型のディスクアレイを導入することができたため, 本年度は, そのディスクアレイのための予備ディスクを 5 本程度消耗品として購入する以外は, 研究成果の公表のために使用することを考えている. まず, 2012 年 4 月にウィーンで開催されるヨーロッパ地球科学学会(European Geoscience Union: EGU)において, これまでにレゾリュートベイにおいて観測されたポーラーパッチの動的な性質に関する発表を行う. そのための旅費を必要とする. また, 2012 年 12 月に開催される予定のアメリカ地球物理学会(American Geophysical Union: AGU)において, 2011 年度に実施した全天大気光イメージャと非干渉性散乱レーダーによるポーラーパッチの同時観測の成果を発表したいと考えている. そのための旅費を必要とする. 加えて, 以上の成果を Journal of Geophysical Research 誌などの学術雑誌に発表するための英文校閲・出版費用を必要とする.
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