研究概要 |
当初の予定通り, 2012 年 10, 11, 12 月, 2013 年 1, 2, 3 月の期間に, カナダ北部のレゾリュートベイにおいて, カナダのサスカチュワン大学, 米国ボストン大学, SRI International と共同で, 高感度大気光イメージャとレゾリュートベイ非干渉性散乱レーダー(RISR-N)によるポーラーキャップパッチの 3 次元観測を実施した. この同時観測によって得られたデータセットは, ポーラーキャップパッチの 3 次元構造を解明し, ポーラーキャップパッチが衛星通信・衛星測位環境に与える影響を評価する際に, 非常に重要な意義を持つものである. これと並行して, 昨年度までの特別観測によって得られたデータを, 米国ボストン大学の Hanna Dahlgren 博士と共同で解析し, ポーラーキャップパッチの全域において電子密度の不規則構造(プラズマイレギュラリティ)が発生していることを明らかにした. これは, ポーラーキャップパッチが衛星通信環境に影響を及ぼす可能性のあるプラズマイレギュラリティの重要なソースになっていることを強く示唆するものであり, 電離圏擾乱が衛星測位に与える影響を評価する際に必要不可欠な情報となる. また, ポーラーキャップパッチと同様に極冠域に密度変動を作り出すポーラーキャップアークについても, 高感度大気光イメージャと RISR-N, さらには大型短波レーダー(PolarDARN), GPS 全電子数観測を組み合わせた総合観測を行い, ポーラーキャップアークが作り出す電離圏擾乱の 3 次元構造, およびその時間変動を明らかにした. 以上の成果は, 極冠域に現れる超高層大気現象(ポーラーキャップパッチとポーラーキャップアーク)が電離圏の電子密度に与えるインパクトを評価するうえで重要な情報を与えるものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012 年度の冬季も, 高感度大気光イメージャとレゾリュートベイ非干渉性散乱レーダー(RISR-N)によるポーラーキャップパッチのキャンペーン観測を長期間にわたって実施することができた. 2011 年度までの観測では, 計 25 本のビームを用いて全天イメージャ視野内の北側の領域を集中的に観測していたが, 現在はビームの数を 42 本にまで増やし, 電離圏の電子密度やイオン速度をより高い空間分解能で取得することができている. また, 昨年度までの特別観測によって得られたデータを, 米国ボストン大学の Hanna Dahlgren 博士と共同で解析し, ポーラーキャップパッチの全域においてプラズマイレギュラリティが発生していることを明らかにした. この研究成果をまとめた論文は Journal of Geophysical Research 誌に掲載されている. また, ポーラーキャップパッチと同様に極冠域に密度変動を作り出すポーラーキャップアークについても, 高感度大気光イメージャと RISR-N を組み合わせた解析を行い, その背景に存在する電場の 3 次元構造の可視化に成功しており, その成果を国内の学会・研究会で発表した. この他にも, カナダニューブランズウィック大学の Jayachandran 博士と共同で, GPS シンチレーション観測網 (CHAIN) によって得られたデータを全天大気光イメージャのデータを組み合わせて, ポーラーキャップアークに伴う電離圏変動について研究を行い, その成果を Journal of Geophysical Research 誌に発表している. 以上のことから, 研究目的はおおむね達成できていると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
2013 年度の冬季にも, 継続して全天大気光イメージャとレゾリュートベイ非干渉性散乱レーダー(RISR-N)によるポーラーパッチのキャンペーン観測を実施する. 2013 年度の冬季には, レゾリュートベイ非干渉性散乱レーダーの二つ目のパネル (RISR-S) の運用が始まっている可能性がある. より広い観測視野を得, パッチの空間構造をより詳細に把握するために, RISR-S の運用の同時運用も視野に入れて特別観測の立案・計画を進める. 今年度の観測の計画・実施と並行して, これまでに行われた観測によって得られたデータを用いたポーラーパッチの 3 次元空間構造の可視化を行い, 得られたパッチの 3 次元分布をもとに, パッチがレゾリュートベイ上空を通過する間に, どのように電子密度を変化させるかを把握する. また, カナダ極冠域に広く展開された GPS シンチレーション観測網 (CHAIN) による観測, および極冠の観測に特化した大型短波レーダー (PolarDARN) の観測を組み合わせ, ポーラーパッチ近傍のプラズマイレギュラリティが, パッチの 3 次元構造のどの部分において生じているのかを明らかにしていく. また, 計画の最終年度となる 2013 年度はこれまでに得られた成果を国内外の学会や学術雑誌に発表することに集中的に取り組む. このために, 2013 年 12 月の American Geophysical Union Fall Meeting において, 極冠域電離圏のセッションを提案している. このセッションにおいて, これまでに得られた成果を公表することを予定している.
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次年度の研究費の使用計画 |
2013 年度は, 研究費の大部分を研究成果の公表のために使用することを考えている. まず, 2012 年 6 月にオーストラリアのブリズベンで開催されるアジアオセアニア地球科学学会(Asia Oceania Geoscience Society: AOGS) において, 申請者がこれまでにレゾリュートベイで行ってきた実施した全天大気光イメージャと非干渉性散乱レーダーによるポーラーパッチの同時観測の成果を招待講演として発表する予定である. また, 2013 年 12 月に開催されるアメリカ地球物理学会(American Geophysical Union: AGU)Fall Meeting において, カナダニューブランズウィック大学の Jayachandran 博士と共同で, 極冠域電離圏に関するセッションを提案しており, その場において成果を発表する予定である. この 2 件の国際学会への出席のための旅費を研究費より捻出する予定である. 加えて, 以上の成果を Journal of Geophysical Research 誌などの学術雑誌に発表するための英文校閲・出版費用を必要とする.
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